CMOの役割と必要なスキルセット
2022/10/01
導入
AIやアルゴリズムの技術革新は市場の流れを一変させ、データドリブンな組織が加速度的に従来の市場を淘汰していく時代になりました。組織を背負って立つ経営陣のみならず、マーケティング担当、営業担当、開発担当者の中にも「今のやり方のままで自社は本当に大丈夫なのか?」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介する「CMO(Chief Marketing Officer)」の役割はマーケティング戦略領域に留まらず、組織全体をデータドリブン化すること、組織全体の利益最大化に伴う全ての経営判断に参画することです。今後、企業が長期的に勝ち続けるためには、CMOによる組織変革が最も重要なファクターとなります。
今回の記事ではCMOの役割・スキルセット・業務委託でCMOを活用するタイミングの3点をご紹介していきます。様々なCMOと共にプロジェクトの併走をしている我々の観点から、”机上のテクニック論ではなく実際の現場でCMOが担っている役割”に焦点を当てて解説していきます。
CMOとは?
マーケティング領域の最高責任者
「CMO(Chief Marketing Officer)」は、直訳すると「マーケティング領域の最高責任者」です。CMOとして第一線で活躍している人材はマーケターとして圧倒的なキャリアを出し続け、プロジェクトの立ち上げ、組織の構築、グロースまで数多くの事業を成功させてきています。初めに抑えておきたいポイントとしては「マーケティング領域の最高責任者」=「広告領域の最高責任者」ではないという点です。
CMOの主な役割は大きく分けると下記の2つに分類できます。
①組織経営における全体戦略の設計
②マーケティングドリブンな組織の育成構築
企業が長期的に勝ち抜いていくための全体戦略を設計し、その戦略を実行できるマーケティング型の組織を作り上げていくことがCMOの役割と言えます。
CMOが求められるようになった時代背景
近年、CMOの役職が増えている背景として、デジタル技術の革新による市場変化が大きく影響しています。
消費者も企業も同様に、これまで見えなかったものが見えるようになり、できなかったことができるようになることで、市場の多様化と細分化が一気に加速しました。市場の多様化・細分化は顧客の商品選択における自由度を向上させます。
顧客主導型の市場に変化した現代においては、開発から顧客管理に至るまで組織全体の業務を顧客起点で遂行できる企業が勝ち残ります。このような背景で「マーケティングドリブンな組織構築」が多くの企業にとって急務となっています。
しかし、マーケティングドリブンな組織を構築するには、高度な市場分析力、経営判断、加えて膨大な時間とエネルギーがかかります。そこでCEOやCHROとは別にマーケティング領域のスペシャリストを経営レイヤーに据え、マーケティング型の組織構築を強化している企業が増えているのです。
それでは、実際に「CMO」人材が現代の企業の中でどのような役割を担っているのか掘り下げていきます。
CMOの役割【12選】
〜全体戦略の設計〜
1.MVVと経営戦略のベクトル整合
経営戦略を策定、または見直す際には「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」と「経営戦略」のベクトルにズレがないかを第一に注意しなければなりません。「MVV」と「経営戦略」のズレは企業ブランドを直接傷つけてしまう恐れがあるためです。
MVVが経営戦略に色濃く反映されている良い例として、株式会社ドンキホーテを見てみましょう。
同社のミッションは「顧客最優先主義」、ビジョンの中には「ワクワク・ドキドキ」「創造的破壊」「安定志向と予定調和の排斥」といった要素が盛り込まれています。実際にドンキホーテに足を運んでみると、特徴的なポップアップや入り組んだ通路導線でワクワク、ドキドキする売り場設計がされており、取り扱い商品ラインナップやパッケージもまさに創造的破壊という表現がぴったりなものが、ズラリと並んでいるのが見て取れます。
しかし、仮に「売り場の道が狭い」という理由で縦横画一的な売り場設計をした場合、ビジョンとズレた戦略になり、ドンキホーテならではの世界観を破壊してしまう要因になりえると言えます。
このように、企業の持つ文化や価値観と経営戦略が合致しているかを常に注意しながら経営戦略を立てることが重要です。
2.持続可能性を踏まえた経営計画の策定
次に、持続可能性を踏まえた経営計画の策定について解説します。近年、環境問題や社会問題への関心が高まっており、企業活動を評価する指標の一つとして「SDGs」や「ESG」という言葉が世間的に広がるようになりました。近年投資機関が企業投資を行う際に「E(Emvironment)=環境」「S(Social)=社会」「G(Governance)=企業統治」における3つの軸で企業の取り組みを精査し、基準に満たない企業は投資対象リストから外すといった取り組みが行われています。このような世界的な取り組みは、企業経営に影響を及ぼす可能性があるため、当然考慮しなければならない要素です。これらの指標を元に経営計画を策定することは企業ブランドの向上にもつながり、組織全体の長期的な利益拡大に寄与するファクターであると言えます。
3.企業ブランディング計画の策定
企業の全体戦略において、企業ブランドの構築計画はCMOの重要な役割となります。「商品ブランド」ではなく「企業ブランド」の構築に重心を置くことで跳ね返ってくるリターンは大きく、下記3つのハードルを下げる効果が期待できます。
①新規顧客獲得
②ロイヤルカスタマー化
③人材採用
「企業ブランドが構築できている」とは、「〇〇をするなら/〇〇を買うなら」と消費者が考えた際に、自社を想起してもらえている状態です。この状態を作り上げるためには「市場構造分析」「消費者理解」「自社分析」の精度が重要です。顧客が抱えている課題を徹底的に理解し、他社では提供できないオリジナリティのある価値や便益を提供し続ける必要があります。
例えば、珈琲チェーンのコメダ珈琲を例に挙げて見てみましょう。
通常、喫茶店は顧客1人当たりの売上単価が低いことから回転率を強く意識する必要があり、当時は低単価×高回転型(orテイクアウト強化)の店作りをする傾向がありました。しかし、コメダ珈琲は客席の大部分がソファー席、客席にコンセントの設置、ネット環境の無料提供、お冷やの注ぎ廻りなど、顧客がより長くくつろげる店作りをしました。これは、コメダ珈琲は「くつろぐ、いいところ」と競合の逆を行くミッションを掲げているためです。回転率の優先度合いを下げた店作りにより「ゆっくりするならコメダ」というイメージを消費者の脳内へ想起させることに成功。その結果、地域の顧客が段々とロイヤルカスタマー化していきました。
事業構築において、圧倒的な成果を出し続けてきたCMO人材は例外なく市場分析と自社分析のスペシャリストです。また、分析や消費者体験から顧客のインサイトを踏まえて、顧客に提供する新たな便益を生み出しています。事業をスケールさせる上でCMOによる綿密な企業ブランディング計画策定は必要不可欠な要素であると言えるでしょう。
4.バリューチェーンの洗い出し
これらと並行して、バリューチェーンの洗い出しを行うこともCMOの重要な役割の一つです。「バリューチェーン」とは、企業活動において発生する全ての業務工程の中で、価値を生み出しているポイントを「価値の連鎖」として分析し、洗い出すことを意味します。
先ほどのコメダ珈琲で言えば「地域からの信頼」「くつろげるソファー」「接客クオリティ」「美味しいメニュー」などが「バリュー」に該当します。自社のバリューチェーンを洗い出すことは、自社が提供している価値、今後提供できる可能性のある価値を可視化するだけでなく、優先順位の低い価値にかけているコストの削減、顧客に選ばれている価値に投資リソースを集中させる、など戦略改善の際に様々なヒントを得ることができる重要な業務です。また、自社が提供できる価値を列挙することで「自社が戦うべき領域」が、より明確に見えてきます。
トヨタ自動車が自動車メーカーからMaaS(移動サービス)提供企業へのシフトチェンジを発表したように、また、USJがハリウッド映画特化のテーマパークから漫画やアニメのコンセプトを盛り込んだテーマパークへシフトチェンジしたように、市場変化が激化している昨今、どんな企業にもダイナミックな組織変革を余儀なくされるタイミングが訪れる可能性はあります。その際、自社が持っている武器(価値)を把握しておき、常に最適なSTP(セグメント・ターゲット・ポジショニング)を見定めた経営判断ができる企業は市場を勝ち抜いていけます。市場から選ばれ続ける組織体制に企業を変革していくためには、自社が持つバリューを徹底的に洗い出すことが重大な要素と言えます。
5.事業開発におけるマーケティングリサーチ
「事業開発におけるマーケティングリサーチ」もCMOに与えられた重要な役割です。「組織全体の利益最大化」を果たすためには、既存の事業形態に囚われない新たな事業構想の練り上げが欠かせない要素であるためです。ここでは、再現性の高い事業開発のフレームワークとして多くの企業がモデルとしている8つのプロセスをご紹介します。
ーーーーーー
▼事業開発における8つのプロセス
①市場構造の分析
②消費者インサイトの探究
③コンセプト開発+テスト
④プロダクト開発+テスト
⑤パッケージ開発+テスト
⑥ミックステストと需要予測
⑦広告開発
⑧ローンチ
ーーーーーー
これら事業開発におけるマーケティングリサーチの精度を高めるために重要な2つのポイントについて触れておきます。
一つ目は「上流から下流の順にリサーチ・開発を行うこと」です。前のステージがクリアになっていない状態で行うと、検討外れなリサーチ・開発にリソースを消費してしまう結果を引き起こしかねません。必ず①→⑧の順でリサーチ・開発を行うようにしましょう。また、上流から戦略設計を行うことでポテンシャルの高いアイデアにリソースを選択集中することができる点も大きなメリットであると言えます。
二つ目に重要な要素は「ステージクリアの基準を明確に定義すること」です。また客観性の高い評価基準を設定するためにも、調査の手順(アンケートデザイン、フォーマット、質問内容、質問手順、など)は極力複雑化せずに標準化しておくことがポイントになります。全ステージにおいて調査・テストの手順を標準化することで結果の是非が分かりやすくなり、フレームワークの精度をより向上させることが可能になります。
商品発売後の売上が期待通りにいかない原因は事前の調査方法や分析方法に問題がある場合が殆どであるため、ローンチ前にどれだけ入念な事前準備ができるかが事業成功の鍵となります。
6.市場構造の分析
ここではマーケティングリサーチの最上流ステージである「市場構造の分析」について重要な要素を解説します。
自社が置かれている市場の構造を正しく把握できなければ、目標設定、戦略設計、戦術設計など、全てのマーケティングフローが的外れなものとなり、組織としては取り返しのつかない損失を生んでしまいます。当たり前の話に聞こえますが、実際の現場では固定概念が邪魔をしてしまい改善の余地が最も多いポイントでもあるため注意が必要です。
では、実際にどのような点に注意して市場構造を分析すれば良いのでしょうか。
注意すべきポイントは「顕在化しているサービス内容」ではなく「提供している価値」をベースにして市場をセグメント分けすることです。例えば、先ほど例にあげたコメダ珈琲においては、提供している価値が「くつろぎ」、顕在化しているサービス内容が「喫茶店」に当たります。これら2点をベースにコメダ珈琲が置かれている市場構造を分析した結果、下記のようになります。
ーーーーー
▼「くつろぎ」をベースに市場をセグメント分けした場合
「消費者」=一人でゆっくりしたい人、友達と話したい人、作業に没頭したい人、など
「競合」=喫茶店、ネットカフェ、カラオケ、レンタルオフィス、スーパー銭湯、など
▼「喫茶店」をベースに市場をセグメント分けした場合
「消費者」=喉が乾いている人、珈琲が好きな人、お腹が空いている人、など
「競合」=喫茶店、レストラン、居酒屋、珈琲ショップ、など
ーーーーー
セグメント分けのベースによって、消費者も競合他社も全く異なってくることが見て取れます。こちらを履き違えてしまうことで、「くつろぎ」を求めている消費者に対して「珈琲の味」で勝負すると言ったような的外れな戦略が取られてしまう可能性が高まります。また、それだけでなく、自社で獲得できる余地のあるユーザーをネットカフェに逃してしまうなどの機会損失にも繋がります。
「市場分析を改めて実施した結果、事業の進むべき方向性が180度違っていたことが分かった」という例は我々が見てきた中でも非常に多いパターンですので、市場分析のスペシャリストであるCMOが全社的に舵を切って、入念に市場分析を執り行うことが重要です。
7.事業ポートフォリオの再設計
次に事業ポートフォリオの再設計です。事業ポートフォリオとは、複数に渡る事業の構成を意味します。組織全体の利益拡大を図る上では、今後最も利益を獲得できる可能性が高い事業にリソースを選択集中し、そうでない事業を縮小、または撤退する経営判断がCMOに求められます。その際に重要視すべき指標は「売上成長率」と「投資対利益率」の2点です。これらそれぞれに基準値を設定し、上記の基準値と各事業における達成数値を可視化する必要があります。ここでは、これらの考え方を基に、リソースを投下すべき事業について解説をしていきます。
まず初めに、最もリソースを投下すべき事業は「売上成長率」「投資対利益率」共に基準値をクリアしている事業です。この事業はリソース投下量を増加させることにより、更なる事業の成長、競合優位性の獲得が期待できる最もホットな事業であると言えます。
次にリソースを投下すべき事業は、「売上成長率」は基準値をクリアしているが、「投資対利益率」が基準値に対して未達である事業です。大きく伸びる可能性のある期待の事業のため、当然キャッシュの回収スキームも見据えながら更なる投資で成長を促す必要があります。
「売上成長率」も「投資対利益率」も未達状態のまま事業が長期的に継続している場合は、抜本的な企業体質やマーケティング戦略の変革が必要になります。
8.組織内リソースの再配置
事業ポートフォリオの見直しや、事業そのものの戦略の見直しに伴って、組織内のリソースを再配置する必要もあります。ここでの「リソース」とは人的リソースに限らず、「ヒト・モノ・カネ・時間・知財・情報」など企業が持つ全ての資源を意味します。「再配置」は「選択と集中」と同義だと捉えてください。
組織内のリソース配置において最も陥りがちな落とし穴は「あらゆる領域にリソースを平均配分してしまうこと」です。リスクマネジメント戦略の観点から見ると、一見合理的な判断だと捉えられがちですが、リソースを分散させることは「本来勝てたはずの領域で勝てなかった」という結果を引き起こしてしまう要因として最も多いものになります。
特にベンチャー企業の場合は、大手企業と比較した際にあらゆるリソースが限定的です。しかし裏を返せば、ベンチャーの強みは特定の領域に対して1点集中型でリソースを即座に投下できる所であり、大手企業の場合、多種多様な事業やステークホルダーも多く、特定の領域にリソースを集中させることが難しいケースが多々見受けられます。
不必要にリソースを分散させることは、施策を少しずつ試したが故に全ての施策が成果に到達するラインに届かなかった、複数のターゲットに刺さる訴求をしたが故にどのターゲットにも刺さらなかったなど、よくある失敗要因です。特に意思決定においては、そのステージが上流であればあるほど組織に与える影響は大きくなります。「ヒト・モノ・カネ・時間・知財・情報」の資源配分は組織における目標達成に向けた土台そのものであるため、組織全体を勝たせていくための全体戦略設計を担うマーケティング領域のトップが、リソース配置の経営判断を担う必要性があると言えます。
〜マーケティングドリブンな組織の育成構築〜
9.データドリブン環境の構築
「マーケティングドリブンな組織」とは「売れる必然や勝ち筋を自分たちで作り出せる組織」です。売れる必然や勝ち筋を作り出すためには、なぜ自社の商品を顧客が購入しているのかを、徹底的に理解しなければなりません。そのために必要なのが「顧客理解」です。つまり「売れる必然を自分たちで作り出せる組織」とは「顧客理解から勝ち筋を作り出せる組織」であると言えます。しかし、顧客を理解するための、データ収集や分析に求められるスキルは非常に高度で、闇雲なデータ収集は、ただ思考を鈍らせる要素を増やしてしまう結果を招きます。
- 何の目的を達成するためにデータを収集するか
- 目的達成のためにどのようなデータを収集すべきか
- 特定のデータを収集するためにどのような方法を行うべきか
- 収集したデータをどのように活用するか
CMOがフレームワーク(思考のフロー)を作成して全社的に共有し、誰がやっても効果的なデータ抽出ができる仕組み作りをしておくこと、そして、抽出したデータから次の打ち手を導き出す習慣作りを組織単位で執り行うことが重要な要素になります。
また、ここで言う「データ」とは、数値で測る定量的なデータに限らず、消費者アンケートなどの定性的な情報も含めたデータを指します。
イメージ、感覚、常識、といった主観的な観点での事業推進が常態化している組織では、的外れな戦略策定により、企業にとって不幸な結果を招いてしまう傾向が非常に高まります。再現性の高い勝ち筋を自分たちで作り出せるマーケティングドリブンな組織構築をする上では、効果的なフレームワークと社内の意識改革が重要な鍵となります。
10.消費者視点の社内浸透
組織全体をマーケティング型に機能させていくためには、現場で働く一人ひとりの意識をマーケティング脳に改革していく必要もあります。顧客とのタッチポイントを担う部署からサービス開発を担う部署まで、一人一人がマーケティング思考の伴った業務推進ができることで、初めて組織がマーケティングドリブンな組織として有機的に機能するようになるためです。
では、どのようにすれば社員一人一人にマーケティング思考をインストールできるのでしょうか。それは、地道に日々の小さな「気付き」と「効果の実感」を積み重ねることです。そのために必要な環境と道具を取り揃え、最初の起点と流れを作り出すことがCMOの役割であると言えます。ここでは、消費者分析によってカスタマーサポート部署から商品開発部署に至るまで消費者視点の重要性に関して気付きを与えた事例を一つご紹介します。
とある消費材メーカーが、綺麗に汚れを落としたい主婦をターゲットに洗濯用洗剤の企画開発をしていた事例です。同社では、競合優位性を担保するため競合他社と比べて「より白く汚れを落とすことができる」という洗剤を開発しました。商品分析の結果、自社の商品は競合の商品に比べて最も漂白率が高かったものの、思うように売上が伸びません。何故でしょうか?ここで消費者視点に立てるか否かで、次の一手が変わります。
ーーーーー
▼「消費者視点」に立てなかった場合
①焦点:「自社の商品力」や「販促方法」の見直し
②対策:「より商品力の高い企画立案」や「販促強化」
③改善:「商品の漂白率をあげる」「広告媒体の追加」
▼「消費者視点」に立てた場合
①焦点:「消費者の意識構造」の見直し
②対策:「アンケート調査の実施」
③改善:「顧客データを基にした企画・訴求方法の見直し」
ーーーーー
同社はアンケート調査を実施し、顧客が汚れの落ち具合をどのように判断しているのか調べました。調査の結果、消費者は「仕上がり後の白さ」ではなく「仕上がり後の匂い」で汚れの落ちを確認していることが判明します。そこで次の一手として、臭いの元になる菌を殺菌できるように商品を再開発しました。また、仕上がり後の匂いを訴求する宣伝広告に投資をすることで市場シェアの拡大に成功し、組織全体に消費者理解の重要性を再確認させる気付きを与えることができたのです。このように、顧客起点での事業運営を各部門を連携させて成功に導き、効果を実感させることこそが、社内全体にその重要性を落とし込む重要な鍵であり、CMOに与えられた役割であると言えます。
11.マーケティング事業部の設立
組織全体をマーケティング型に変革していく上で、その核となるマーケティング事業部の設立は、最も重要度の高い要素の一つです。市場分析や消費者分析を基に利益を最大化する戦略を練り出す業務は、組織全体の事業運営を左右する領域であり、事業部そのものが言わば組織の「ブレイン」的な役割を担っています。事業拡大に与えるインパクトを考慮すると、組織内のリソースをマーケティング部門に集中させることは合理的な判断だと言えます。
先述した消費材メーカーの例でも見られるように、マーケティング事業部における市場調査は企画開発へダイレクトに反映されることが望ましいです。また、企画開発部署、生産管理部署は、マーケティング部署の直下に配置できると、より理想的なマーケティングドリブンな組織構築へと繋がります。
デジタル化の加速により、獲得できるデータは量・質共に、それ以前とは比べ物にならないほど増大・高度化しています。また、市場の激化により「安さ」や「速さ」の勝負だけでは生き残ることが困難な時代になりました。現代市場を勝ち抜くにはニーズに応える有効な差別化が必要不可欠であり、差別化の鍵は顧客のインサイトを理解する「深度」にあります。そのためのケイパビリティを持つCMOをトップとしたマーケティング部署を組織の中心に据え、組織構造の改革にいち早く着手することのできた企業が、今を勝ち抜く企業であると言えるでしょう。
12.部署間連携を強化する仕組み作り
マーケティングドリブンな組織を構築する上では「部署間連携が有効に機能している」ことが前提条件になります。先の消費財メーカーにおける事例で見たように、「顧客ニーズ」に「提供価値」の照準を合わせていくような作業は、単一事業部のみでの取り組みでは実現不可能であるためです。
では、どのようにすれば部署間連携を強化することができるのでしょうか。また「部署間の連携強化」にどのようなレバレッジをかければ組織をよりマーケティング型に進化させられるでしょうか。社内をマーケティングするという観点で「部署間連携の強化で組織をマーケティングドリブン型に進化させる=達成目標」と捉えた場合、下記のようなマーケティングフローで目標達成における一定の効果が期待できます。
ーーーーー
目的(why) :顧客への提供価値を最大化するために、
部署間連携の強化で組織をマーケティングドリブン型に進化させる
戦略(what):①社員一人一人が他部署のデータを見たくなる仕組みを作る
②新たな社内コミュニティ作成により所属部署以外で仲間意識を作る
戦術(how) :①様々なKPIの見える可
②データ好きな人たちのゆるふわチャットグループ作成
ーーーーー
例えば「戦術①様々なKPIの見える可」は各部署で追っているKPI要件や進捗具合を全社的に一覧で見えるようにする取り組みです。これにより、日頃の業務では見えてこない他部署における目標設定やPDCAが見えるようになります。仲間が日々追っている目標を理解することや、少しずつレベルが上がっていくストーリーを追っていくことで、他部署が楽しんで情報を得ることができます。また「この数値が急にハネたが、何故だろう?」と顧客理解を全社的に促進させることで、マーケティングドリブンな思考を浸透させることも狙えます。目先の業務で狭まりがちな視野を広げ、組織全体の業務フローを意識した、ワンステージ高い視座での業務推進を促す効果も期待できます。
この取り組み(上記では戦術に該当する箇所)は国内企業ではトップクラスのマーケティングドリブンな組織運営をしているメルカリ社が実際に行っている取り組み事例です。部署間連携の核となる要素は「個々人の主体性に訴えかける」ことです。いかに「楽しそう」で「ワクワクする」ような盤面を準備できるかが重要なポイントで、マーケティングドリブンな企業ならではの巧みな組織戦略です。
CMOが持つスキルセット【5選】
1.膨大なデータから核心を捉える解析力
CMOが持つ最も強力なスキルセットは「データから核心を捉える解析力」です。「組織全体の利益最大化」を責任領域とし、結果を出し続けているCMO人材は、例外なく「データ利活用」におけるスペシャリストです。
ーーーーー
・なぜその領域で勝てるのか⇔なぜ他の領域では勝てないのか
・なぜそのターゲットなのか⇔なぜ他のターゲットではないのか
・なぜその事業を選択するのか⇔なぜ他の事業を選択しないのか
・なぜその課題を解決できるのか⇔なぜ他の課題解決ではないのか
・なぜ顧客がリピートするのか⇔なぜ顧客が離脱するのか
ーーーーー
全ての意思決定、及び戦略・戦術の策定には「顧客データ」や「環境データ」が活用されています。データの伴わない戦略や施策では、タイミングや諸条件が合えば当たることがありますが、同時に空振りを繰り返すことで貴重なリソースを浪費してしまうリスクが伴います。特にこれから事業を拡大させていくPMF(プロダクトマーケットフィット)前の段階や、既存事業を大きく転換させるタイミングにおいては、徹底したデータ分析に基づいた勝ち筋の構築ができるか否かが非常に重要なポイントになります。
2.組織の全体最適を図る高い視座
「企業経営における高い視座」は、マーケティング領域に限らず取締役クラスの人材は例外なく持ち合わせている素養だと言えます。その中でも、CMOが突出して持っている視点が「組織における全体最適化」の視点です。
「全体最適化」の際に重要な要素は、事業を勝たせるために何が必要なのかを「体感」で理解していることです。事業推進に必要な要素は上げ始めればキリがありません。
ーーーーー
ヒト・モノ・カネ・時間・市場分析・環境分析・消費者分析・調査方法・コミュニケーション・クリエイティブ・テスト方法・オペレーション方法・マネジメント方法・・など
ーーーーー
その事業が「なぜ勝てるのか」根拠が手薄な状態で行う事業選択やリソース選択は曖昧な意思決定となり、事業が立ち行かなくなる傾向が非常に高まります。例えば「事業責任者の任命」一つとっても、担当事業を最後まで牽引できる人材に欠かせないケイパビリティを「体感」で理解している人材が任命するのとそうでないのとでは、候補者選定の精度に雲泥の差が出ます。
CMOはそのポジションに至るまで「事業開発・事業推進」におけるいくつものプロジェクトマネジメントを遂行してきた人材であり、圧倒的な成果でチームを勝たせてきた叩き上げの人材です。CMOが事業拡大で培ってきた「チームを勝たせるノウハウ」を最大限に活用することで、組織の戦闘力は何倍にも跳ね上がる可能性があります。
3.戦略思考でボトルネックを見抜く洞察力
CMOに特化したスキルの一つとして、戦略思考でボトルネックを見抜く洞察力が挙げられます。これはマーケター思考の特徴とも言えます。目の前で起きた事象を「何の力がどう働いてこの現象が発生したのか」と、日頃から複合的・連鎖的に分析する習慣が染み付いているため、その他の領域で活躍している人材と比べて課題抽出能力が非常に高いです。また、起きた現象を常に上流から下流に分析していく思考回路が、ボトルネックになっているそもそもの要因を的確に見抜く精度に磨きをかけています。ここでは新規顧客の獲得数が減少している問題点が現場で発生した場合を例に考えてみましょう。
ーーーーー
▼ボトルネックの考察起点例
CMO:市場構造や競合優位性の観点で問題はないか
事業責任者 :コンセプトやプロモーションに問題がないか
ディレクター :施策の選定方法に問題がないか
現場レイヤー :施策の実行方法に問題がないか
ーーーーー
上記はあくまで一例ですが、上流のレイヤーになればなるほど、目の前で起きた問題点に対してボトルネックを上流戦略から潰していく傾向があることが見て取れます。また、CMOは環境分析から消費者のインサイトまで様々なスケールのデータを日頃から複合的に分析しているため、マクロ視点にもミクロ視点にも偏らないバランスの取れた洞察眼が非常に鋭いです。CMOの脳内を超高性能なCPUだと捉え、そこにとりあえず課題を放り込んでみることで予期せぬところから課題のボトルネックが浮かび上がってきた、というのは現場の壁打ちで非常によく見る光景です。特に上流戦略の設計などにおいては精査しなければならない情報量が多いため、CMOクラスの人材に相談することで課題の解決へ大きく近づくことができます。
4.即座に経営判断を下す高い瞬発力
こちらも取締役クラスの人材には共通している特徴ですが、「即座に経営判断を下す高い瞬発力」を持っているという点もCMOの持つスキルセットとしてあげることができます。特にマーケティング領域における意思決定においては「タイミング」が重要な要素となるケースが多いため、意思決定における瞬発力はCMO人材にとって特に重要度の高い要素です。
では、意思決定に時間がかかる人と即座に意思決定ができる人の違いは一体どこにあるのでしょうか。
その違いは「成功確率を頭の中で即座に叩き出せる計算基盤ができているか否か」です。そのためのポイントを3点ご紹介します。
ーーーーー
・情報アンテナの広さ
・情報量と質の担保
・抽出した情報の解析力
ーーーーー
一つ目は日頃から張っている「情報アンテナの広さ」です。Go/No goの経営判断における成功確率を高めるためには、その選択に影響を及ぼす様々な環境要因を踏まえた意思決定が必須条件になります。競合数や市場規模が頭に入っていれば、その事業が持つポテンシャルを即座に判断できますし、そうでなければ、一から市場調査を行うため意思決定に時間がかかります。
二つ目は「情報量と質の担保」です。表面をさらうだけの浅い情報を広く取っても本質を見極めることはできません。様々な切り口から情報収集を行い、精度の低い情報に惑わされないよう、裏付けとなるエビデンスチェックができるか否かも必要な要素となります。
最後に「抽出した情報の解析力」です。情報を収集することは、判断のための道具を集めることを意味します。それをどう有機的に結びつけて成功確率を上げられるかが最も重要なポイントです。CMOは顧客データや周辺環境データをもとにした戦略策定のプロフェッショナルなので、数値解析力と打ち手を導き出す創造力に非常に長けています。
先述の通り、マーケティング領域においては一挙手一投足を起こすタイミングが市場を創る、または、時流に乗れるか否かを左右する重要な要素になります。そのため経営判断を即座に行える人材をCMOに据え置くことは必須条件と言えます。
5.市場やムーブメントを作り出す創造力
他にもCMO人材に欠かせない要素として「創造力」が挙げられます。常に市場の動向を見極めた新たなプロダクト構想の着手がCMOにおける役割の一つであるためです。
新たなプロダクト構想において、重要なポイントになるのが「プロダクトアウトとマーケットインのバランス感覚」です。マーケティング戦略における基本の考え方は「マーケットインの徹底」で、今回の記事でも「顧客起点の事業推進ができる組織構築」を軸に記述してきました。しかしながら、顧客自身も気が付いていない(または体感したことのない)新たな価値の創出という観点から見ると、プロダクトアウトでサービスや商品を上市していくことが効果的なケースも多数存在します。
例えば、Appleがスマホを開発する際は、マーケットインの視点で顧客データをもとに戦略設計が行われた訳ではありません。他にも、サービスの乱立で有効な差別化の難易度が高い領域(化粧品業界など)では、ユーザーから抽出したデータをもとに微小な差別化を図るより、ユーザー自身も気が付いていないダイナミックな新商品が跳ねるというケースは往々にして存在します。企業都合での事業展開で顧客が置いてけぼりになる事例が頻発したことによって「プロダクトアウト=悪者」というイメージが広まりましたが、どちらの概念もその重心を「顧客」に据えている限り必要なアプローチ方法で、二元論的に捉えるべき概念ではありません。特に新たな事業を構築していくという点においては、ユーザーが体感したことのない感動的な顧客体験を作り出せるかが非常に重要なポイントとなります。顧客の2歩3歩先を行く世界観を構築し、市場に大きなムーブメントを巻き起こすことができる人材が、企業のマーケティング領域を牽引している人材となります。
企業はいつ「CMO × 業務委託人材」を活用するのか【4選】
最後に、企業はいつ「CMO × 業務委託人材」を活用するのかという観点でポイントを4つご紹介します。「ジョブ型雇用」の働き方が拡がり「業務委託」に対する企業のハードルが下がってきたことで、CMOクラスの人材を必要なタイミングで自社にアサインするという企業が近年増加傾向にあります。戦略設計でお悩みの方は下記をご参考ください。
1.社内にマーケティング領域のプロがいない
CMOを業務委託として活用する企業でよくある例が「社内にマーケティング領域のプロフェッショナルがいない」という例です。要因としては、国内においてマーケティング領域のプロフェッショナル人材がそもそも少ないという点が挙げられます。下記は広告領域を担う人材をマーケターと定義し、国内のマーケター人口を調査した調査結果です。
ーーーーー
・国内企業におけるデジタルマーケター人口総数は20,030人
・その中で意思決定を伴う役割を担っているのが4,206人
(2018年株式会社ビデオリサーチインタラクティブ調査)
ーーーーー
つまり、2018年段階では、事業戦略における上流ステージからデジタルを伴う下流戦術におけるまで事業開発全体に精通している人材は4,206人を下回る数値であるということがこのデータから見て取れます。顧客主導型の現代市場で事業を成功させるためには、他社が提供していない「価値」をいかに顧客へ届けられるかというマーケティング思考で事業推進を行うことが重要な要素となるため、CMOクラスの人材を戦略設計時にアサインする企業が増えています。
2.ダイナミックな事業転換を迫られている
「既存事業が頭打ちになってしまったので、新たな領域に事業転換をしなければならないことは明確なのですが、社内でそれを牽引できる人材がいなくて困っています」という声を頂く機会がここ数年で非常に増えています。
ーーーーー
・消費動線がデジタル化したことで事業モデルとして成立しなくなった
・コロナ禍による生活変化の影響を大きく受けた
・大きく揺れる世界情勢の中で輸出入の影響を受けて事業が継続困難になった
ーーーーー
多くの企業が破壊と創造の選択を迫られている時代ですが、この状況は逆にチャンスでもあります。これまでユーザーに選ばれ続けてきた企業であれば、どんな企業でもユーザーニーズを満たすための「バリュー」を持っています。そして人間の根本にある「ニーズ」そのものは、コロナで消費行動が変化したところで変わるものではありません。むしろ抑制が強まることで発散場所を探している状態です。ここで入念なマーケティングリサーチの伴う事業転換ができるかが、次の時代を勝ち残れるか決める最も重要な鍵であると言えます。そこで、戦略設計強化のためマーケティング領域のプロフェッショナルであるCMO人材を自社にアサインしているという企業が増えています。
3.新規事業を立ち上げる
次に企業がCMOを活用するタイミングとして多い例が「新規事業を立ち上げる」タイミングです。事業開発においては、事前のマーケティングリサーチや戦略の策定が重要な要素となります。開発前段階でCMOクラスの人材が戦略設計に参画することは企業全体として大きなベネフィットを生み出しますので、新規事業への投資体力がある企業にとっては非常に効果が期待できます。逆に、キャッシュを生み出すコア事業をこれから作り上げていくという企業にとっては、組織全体を俯瞰した際に、戦略設計にCMOを活用することがデメリットになるケースもあります。どれだけ勝てる見込みのある戦略を立てても、それを実行できる組織内リソースがないと、立てた戦略が絵に描いた餅に終わってしまう可能性が高いためです。このような場合、自社の経営陣が責任を持って戦略を立案し、より即効性の高い施策実行領域の人材に投資リソースを当てる方が適切な選択であるというケースもあり得ます。
4.組織編成を変革する
多くの企業がCMOを活用するタイミングとして、最後に挙げられるのが「組織編成を変革する」タイミングです。今回の記事を通して記述してきましたが、CMOの大きな役割の一つが「マーケティングドリブンな組織の育成及び構築」であるためです。市場の変化に合わせて柔軟に対応可能な組織体制に刷新したいという場合、事業開発・推進、チーム内リソースの配分決定などにおいて培ってきたCMOの経験値が、組織のマーケティングドリブン化を図る上で精度の高い非常に強力な物差しとなります。多くの企業は日々の数値達成を優先して「組織体制の刷新」は後回しにしがちです。しかしながら、顧客主導型の現代市場において成長し続けられる企業は「マーケティングドリブンな組織運営」によって顧客ニーズを読み解き価値の提供をし続けていける企業です。デイリー・マンスリーの短期的な視点と合わせ、長期的な視点で組織運営を捉えると「組織全体のマーケティングドリブン化」は今すぐにでも着手すべき重要度の高い業務なのです。
まとめ
日頃、企業の担当者の方とお話をしていると「業務委託のCMOと言われても結局何をしてくれるのか分からないんです」という声をよく頂きます。そのような方へ、少しでもイメージを掴んでいただければと思い、日々、複数企業のプロジェクトに業務委託のCMOと併走をさせていただいている我々の観点から、CMOの役割についてご紹介させていただきました。
株式会社縁のMarkeXpertではエキスパートクラスのマーケターを業務委託で提供することが可能です。戦略設計や組織変革についてお悩みのことがあれば弊社のマーケティングコンサルタントがお話をお伺いいたします。その際は下記のWEB相談ボタンからお気軽にお問い合わせください。