マーケティング戦略
2023/07/11
Contents
導入
デジタル社会の加速によって、事業の問題点や課題点を特定する難易度が高まっています。また、昨今では【事業課題=マーケティング=プロモーション=デジタルマーケティング】という、アウトプットやデータとして目につきやすいデジタルマーケティングに意識がいきがちです。SNSを中心にテクニック論が情報化されすぎている影響もあり、世間一般では前述した通り「マーケティング」=「プロモーション」と誤認されがちです。しかし、あくまでも「プロモーション」はマーケティングプロセスの一部です。株式会社縁では「マーケティング」=「持続可能な成長をし続けること」だと定義しています。そのための組織構築、企画、開発、調査、プロモーション、営業、全てがマーケティングです。
今回の記事では、BtoC事業に焦点を当てて、
- ・BtoC事業の戦略構築
- ・よくあるBtoC事業の課題と施策
の2つの切り口から詳細を紐解いていきます。
BtoCの戦略構築
まず初めに、事業構築の基盤となる4つの視点について整理しておきます。
- Why
- What
- Who
- How
この4つの基盤が「マーケティング活動=持続可能な成長をし続けること」において一つも欠かすことができない最重要項目です。これら一つ一つの解像度をどこまで高められて、実現できるかが事業の行末を左右する鍵であると言えます。
戦略設計の大まかな流れ
次に、上記の4点をさらに細分化し、大まかな戦略構築の流れを表したものが下記となります。
- 【Why / 存在意義と実現可能性】を定義する
- 【Why】をもとに【What / 商品設計】【Who / 顧客分析】を行う
- 【What】【Who】をもとに【How / 戦術設計】を行う
- 市場/競合と事業ドメインのバランスを常に加味して適切な意思決定を行う
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※「What」は「提供便益」を表すが、ここでは便益の設計に関わる戦略フェーズとして、市場調査や顧客特定についても「What」の章にて記述をする。
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「1.Why → 2.What / Who → 3.How」の順序は決して前後することができない重要なポイントです。
それでは、一つ一つ順を追って具体的な詳細の記述をしていきます。
【Why / 存在意義と実現可能性】
初めに【Why / 存在意義と実現可能性】についてです。
全ての企業経営活動は【Why / 存在意義と実現可能性】から始めることが前提となります。事業戦略を設計する上で【Why / 存在意義と実現可能性】は、
- 何故やるのか(存在意義)
- 何故できるのか(実現可能性)
の2点から捉えることが重要です。
1.何故やるのか(存在意義)
まずは【企業起点】の思考で「自社がなぜその事業を行うのか」を明確に定義することが重要です。事業で提供される便益【What】はこの【Why】を軸として展開される必要があります。【Why】を明確に定義しなければならない理由として、ここでは下記の2点を挙げます。
- 提供便益の一貫性を担保するため
- How(戦術設計)の先行を防ぐため
2点について具体例を交えて一つずつ見ていきましょう。
1.提供便益の一貫性を担保するため
【Why→What】の事業展開が顕著で提供便益の一貫性が分かりやすいコメダ珈琲を例に挙げます。
コメダ珈琲のHPには上記のような経営理念が明示されています。上記の経営理念から、コメダ珈琲の【Why】は【くつろぎを社会に提供すること】であり、【What】である【くつろぎ】がコメダ珈琲が社会に提供したい便益であると分かります。くつろぎを社会に提供するために珈琲チェーンを展開するという軸が明確なため、提供便益【What】には、下記のような【くつろぎ】をベースにした項目がずらりと設計されています。
他にも、ドリンク注文でモーニングの無料提供、無料wifの提供、客席にコンセントの設置、閲覧用の雑誌や新聞の設置など、顧客が自宅のリビングにいるかのように過ごすことができる店舗作りをしています。これらを見ていくと、コメダ珈琲が「カフェ」を通して顧客に届けたいものは「ワクワク」でも「すっきり」でもなく「くつろぎ」であり、内観作りからサービス内容までが一貫して「くつろぎ」を提供するために設計されているということが分かります。
仮にコメダ珈琲に【Why】の【くつろぐ、いちばんいいところを提供したい】という存在意義がなければ、このように一貫した便益を顧客に提供することは容易ではなく、仮にできたとしても偶発的なものとなってしまいます。
このように【Why】が不明確だと【What】で事業の提供便益を設計する際にはその一貫性が損なわれ、場当たり的な戦略設計になったり、商品設計ではなく戦術設計ばかりに意識が向いてしまうことにより、事業が傾きやすくなります。
2.How(戦術設計)の先行を防ぐため
【Why】が不在の状態で事業が行き詰まった際、多くの経営者やマーケティング担当者は【What(商品やサービスの設計について)】よりも【How(主に集客や営業について)】の改善施策に目を向けてしまいがちです。これは目先の数字に追われているという状況もありますが、そもそも【Why(⚪︎⚪︎〜を提供するためにやっている)】という事業の目的そのものが不在なので【What(もっと⚪︎⚪︎〜してもらうために商品やサービスをよりよくできないか)】という思考が発生しづらいことが大きな要因の一つです。
2.何故できるのか(実現可能性)
Why思考に必要なもう一つの切り口が「何故できるのか」という視点です。
このWhyは【顧客起点】の思考でロジカルに組み立てていくことが重要です。「何故できるのか」を突き詰めていく作業は、事業の再現性、実現可能性を高めていくための工程となります。ポイントは下記の4点です。
- 市場の状況
- 顧客の課題
- 自社のケイパビリティ
- 提供便益
上記4点は相関的に捉えることが必要です。
1.市場の状況
市場の状況(需要量、競合数、顧客状況、競合状況、流行、など)と事業領域がうまくマッチングしなければ事業の持続可能性は担保されないため、市場調査は事業構築を行う上で必須事項です。ここでのポイントは市場を把握する解像度です。まずは下記3点の切り口から市場を捉えていきましょう。
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・顧客のニーズ・インサイトは?
・顧客がその競合他社を選ぶ理由は?
・競合他社が提供している便益は?
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数値化できる定量的な市場調査だけでは不十分で、その数値を作り出している「顧客インサイト」や「競合他社の便益」まで捉える必要があります。定性的で目に見えない要素なので特定するのに時間と労力が必要ですが、その解像度の高さ次第で自社のマーケティング戦略に大きな影響を及ぼします。
2.顧客の課題
事業の再現性を高めるために顧客課題の特定は必須事項となります。特にBtoCの場合、購買行動と課題認識が「=」にならないことはよくあります。商品を検討し、利用し、決済を済ますまでのプロセスが「何となく」のまま完結しているケースです。このような場合、「商品を購入した理由」を顧客に聞いても適切な答えが返ってくる可能性は低いです。まずは自身で商品やサービスを利用し、商品を利用した理由を言語化し、商品を利用することで解決できた課題を自身の頭で言語化して導き出す必要があります。
3.ケイパビリティ
次に組織のケイパビリティチェックです。当然ですが、商品のクオリティが担保できなければ事業としては立ち行かなくなってしまいます。ケイパビリティチェックの際は「バリューチェーン分析」の考え方を活用することで網羅的なケイパビリティチェックが可能です。マーケティングにおける業務の工程(例 生産→集荷→販促→販売→CRMなど)ごとに発生する全ての付加価値を書き出すことで下記の要素を可視化できます。
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・自社ができることは何なのか
・自社の強みは何なのか
・自社の何が価値を生み出しているのか
・自社に足りない要素は何なのか
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自社のリソース、アセット、ケイパビリティを可視化することは、外注に必要なコストなども念頭においた計画的な戦略設計を可能にするメリットもあります。
4.提供便益
最後に提供便益です。
事業の実現可能性を測る上で自社の事業が顧客に提供している「便益」を把握しておくことはマストの条件となります。よくある失敗例は、自社商品の「機能性」については把握しているが、自社の商品が顧客に提供している「便益」は把握していないというケース、または「商品の機能性」と「提供便益」が混同してしまっているケースも多いです。このような場合、自社のポジショニング、直接競合や間接競合との関係性、対象顧客選定など、市場調査の全てが検討外れなものとなってしまう可能性が高まります。
提供便益を把握しているか否かは下記の質問に即答できるか否かで判別が可能です。
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・顧客はなぜ自社を選んでいるのか?
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「商品の機能」が顧客に与えている「便利なこと、嬉しいこと、好都合なこと(便益)」は何なのか?をしっかりと捉えることが、事業の実現可能性を高める上では重要な要素となります。
【What / 商品設計】
【Why】の設計が済んだら、事業構築のフェーズに入ります。
【What=便益】ですが、この記事では商品設計に関わる市場調査、セグメンテーション、商品設計までの一連の流れを【What】の章で解説していきます。
商品・サービス設計
商品設計について重要な6点を解説します。
商品設計は事業開発において重要なポイントとなるため、章を通して架空の商品を記事内で設計しながら具体例を交えて解説していきます。
今回は例として日用品である「爪切り」を商品とし、記事を展開していきます。
- 価値・便益の特定
- 価値・便益の設計
- ポジショニング
- 訴求軸の特定
- ネーミング
- プライシング
価値・便益の特定
商品設計をする際に「価値・便益」の特定は最重要項目です。
今回は「爪切り」を商品として想定しているため、「爪切り」の「機能」を活用することで顧客はどのような「便益」を得ることができるのか?を一通り考えましょう。商品の「便益」を特定するために、まずは第一歩として下記の答えを明確化することが重要です。
商品の「機能」を使うことで「顧客は何が嬉しいのか?(便益)」
商品の「機能」を使うことで「顧客は何が好都合なのか?(便益)」
上記の質問の答えとなるものが「顧客の便益」であり、全ての戦略、戦術の起点となる事業の「核」となります。「爪切り」のケースでは下記が「機能」と「便益」に該当します。
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・機能:「商品が」持つ特徴
・便益:「顧客が」喜ぶこと
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このように「機能」と「便益」には明確な違いがあり、「機能」は商品主語、「便益」は顧客主語であることが分かります。「便益」を想定せずに「機能性」ばかりを追い求めてしまうと、顧客ニーズが置き去りとなってしまい、企業側の自己満足的な商品開発が続くことでジリジリと事業が傾いていく傾向が高まります。
高い機能性を担保することは前提として重要な要素ではありますが、自社の商品が顧客にどのような便益をもたらしているのかを把握することは、再現性の高い勝ち筋を描くことに直結する非常に重要な要素です。
価値・便益の設計
「便益」が特定できたら、次にどの「便益」を押し出して戦うか?を設計していきます。
まずは上記で列挙した便益を分類ごとに区分けします。
今回列挙した便益は、例えば上記のように区分けをすることができます。
顧客のどの便益にアプローチするのかによって、商品設計からその後のマーケティングコミュニケーションまで全てが変わります。また、便益の区分けを特定しておくことで、商品設計の際に新たなアイデアが浮かびやすくなります。例えば、下記2つの質問を見てみましょう。
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▼便益分類不在の場合
「この爪切りが顧客に”より喜ばれる”よう、何か改善できないだろうか?」
▼便益分類起点の場合
「この爪切りで顧客に”より安心を届ける”ため、何か改善できないだろうか?」
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上記2つを比べると、前者は抽象的で漠然とした質問なためアイデアが出しづらいですが、後者はより具体的でキーワード(例 安心を届ける)がある質問なためアイデアが想起されやすい傾向があります。下記がアイデアの具体例です。
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▼より顧客に「安心」を届けられないだろうか?
アイデア例)
子供にも爪切りを使う主婦が対象なら、子供が深爪になりすぎないように刃の深さを調整できる爪切りにできないだろうか?
アイデア例)
爪切りを開く際にチャイルドロックをつけられないだろうか?
▼より顧客に「衛生」を届けられないだろうか?
アイデア例)
爪切りの刃をより汚れが付着しづらい素材で作れないだろうか?
アイデア例)
切った爪が奥に溜まらないような工夫ができないだろうか?
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【Why】の章でも触れましたが、このような便益起点での商品開発は事業戦略の一貫性を担保しやすく、事業戦略の実現可能性を飛躍的に高めます。また、便益の分類が特定されており、かつ特定した便益の訴求がしっかりとできていれば、顧客が商品パッケージを目にした瞬間に「商品を買う理由(ニーズ)」を顧客自身に想起させられる可能性が高まり、商品の購買率が高まります。
ポジショニング
次にポジショニングです。
商品の「機能」と「便益」が設計できれば、必然的に市場における自社のポジションは確定します。ここで注意が必要なのは、「商品ベースでのポジション(直接競合との関係性)」と「便益ベースでのポジション(間接競合との関係性)」を混同してしまわないことです。
商品の機能ベースでのポジションとは「他社の爪切りメーカー(直接競合)」との関係性を指します。それに対して、「顧客の便益ベースでのポジション」は「同じ便益を提供する全てのメーカーやサービス店(間接競合)」、例えば爪やすり専門店、指先を衛生的にするという意味では消毒液や石鹸などのメーカーとの関係性を指します。
・商品ベースの市場(直接競合との関係性)
商品ベースの競合との関係性を測る際に重要なポイントは「コモディティ化(差別化不足による日用品化)」しないことです。独自の便益を持たずに商品が標準化されてしまうと熾烈な価格競争が始まり、利益の獲得が困難になります。自社が展開する事業ドメインで、他に自社の事業と類似した「機能」「便益」を提供している同業他社がいないか、事前調査を入念に行いましょう。
・便益ベースの市場(間接競合との関係性)
便益ベースの競合と関係性を測る上で重要なポイントは「便益の掛け合わせ」です。
例えば、下記のような悩みを抱えている主婦を想定してみます。
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「2歳程度の子供が様々なものに手を伸ばしてしまうことで手が不衛生になる。そのまま手を口に入れたりしてしまうので、常に子供の手は清潔に保っておきたい」
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上記の課題に対して提供できる便益は「子供の手を清潔に保つ」です。
そのための機能を持つ商品は「消毒液」「子供用手袋」「手洗い石鹸」「爪切り」などです。これらが「便益ベースでの競合」になります。ここでの差別化として、爪切りにしか提供できない便益はあるでしょうか?例えば、どんな消毒液も石鹸も爪の中まで綺麗にすることは難しく、手袋はそのまま口に入れてしまったり、すぐに子供が外してしまったりします。よって、「爪の中にゴミが溜まらない」という便益は爪切りにしか提供できません。加えて、子供が爪切り時に嫌がらないよう、アニメの「イラスト付き」の爪切りや、爪を切る度に音が鳴るなどの工夫があれば、子供が喜んで爪を切ってくれる可能性が高まり、主婦の「手間が軽減できる」という便益も提供できるかもしれません。また、何でも口に入れてしまう子供にとって爪切りの刃が丸出しになっていることはリスクとなります。使わない時は刃の部分にカバーがかけられるような工夫ができれば、顧客に「より安心・安全」を届けることができるでしょう。このように、他社が提供していない「機能」を商品が保持しているか?「他の便益との掛け合わせ」で顧客が自社を選んでくれる有効な理由を一つでも多く作り出せるか?がポイントになります。ポジショニングを行う際は、上記2つの観点から自社のポジションを捉えることが重要です。
訴求軸の特定
便益が明確化することで、訴求軸も自ずと確定します。ここでのよくある失敗例は、訴求軸が定まっておらず、届けたい人にメッセージが届かない場合です。その訴求軸は設計した【What / 便益】がそのまま該当します。例えば、コメダ珈琲であれば「くつろぎ」です。この「くつろぎ」をベースに全ての空間、サービス、商品、マーケティングコミュニケーションが設計されています。仮に「くつろぎ」とは性質の異なる、「楽しく」「ワイワイと」のように訴求軸が分散してしまうと、商品自体の設計がどんなに「くつろぎ」で一貫していても、顧客は「コメダ珈琲=くつろぎ」と想起しづらい状況を自ら作り出してしまいます。設計した「便益」を訴求軸として、商品のネーミングやパッケージデザイン、マーケティングコミュニケーションを作っていくことを意識しましょう。
ネーミング
次にネーミングです。
商品のネーミングはひと目で商品の「便益」が分かりやすいようなネーミングにすることが重要な要素となります。下記で具体例を一つご紹介します。
例えば、ボディメイクで有名な「RIZAP」は「人は変われる。」という理念を掲げており、【変わること】がRIZAPの【提供便益】であると分かります。これは「結果にコミットする。」というワードにも一貫していますが、「RIZAP」というネーミングにも【変わる】という便益がひと目で分かる工夫が見て取れます。「RIZAP」の由来は下記のように記されています。
ライズアップと聞くと「高く飛躍する」というイメージがすぐに湧いてきます。このように、提供便益と商品のネーミングは一貫性を伴っていることが望ましいです。
プライシング
最後にプライシングについてです。
プライシングとは商品・サービスの価格を設定することを意味します。プライシングの際に重要となるポイントは下記の3点です。
- 提供便益
- 全体コスト
- 市場価格
1.提供便益
プライシングの際、まず初めに重要となるのが商品の「便益」です。従来では、開発にかかったコストに利益を乗せて価格を設定する「コストベース・プライシング」が一般的でしたが、消費者ニーズが多様化した現代では、顧客にもたらす便益を軸に価格設定を行う「バリューベース・プライシング」の重要度が高まっています。前述で例に出した「コメダ珈琲」と「RIZAP」はまさに「バリューベース・プライシング」を体現している代表的な企業です。どちらの企業も競合他社と比較すると顧客単価がかなり高いですが、コメダ珈琲では【競合他社にはない圧倒的な居心地の良さ、長居ができる環境】、RIZAPでは【競合他社とは比べ物にならない”結果”への執念】など、どちらの企業も他社にはない独自の便益を顧客に提供しており、その便益に顧客が満足しているからこそ、他社より高い価格設定でも事業を成長させ続けることができています。
2.全体コスト
次に全体コストです。バリューベース・プライシングの重要度が高まっていますが、コストが利益を上回ってしまうと事業は立ち行かなくなります。開発コスト、人件費や販管費を加味した上で黒字化できる計画を策定することは必須事項です。
3.市場価格
最後に市場価格です。
自社が提供する商品の直接競合、または類似した商品を提供している間接競合がどの程度の価格で商品を売り出しているかも、自社商品の価格設定に影響します。ここで注意したいポイントは、「他社商品の”価格”」ではなく「他社商品の”便益”」に着目する必要があるという点です。見るべきポイントは「価格そのもの」ではなく「なぜその価格なのか」です。例えば、「爪切り」のような日用品であれば大量生産・大量消費がベースとなっているため、競合他社の商品は低単価であることが想定されます。価格競争で有利になるのは競合よりも資本力がある場合に限りますので、そうでない場合は「独自の商品・独自の便益をより高単価」で売り出していく戦略がベターとなります。
顧客理解
次に顧客理解についてです。
ここでは商品設計を行う上でなぜ顧客理解が重要なのかについてポイントを解説していきます。
改めて【What】の定義を確認しておきます。
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【What】=【商品を通して顧客に何を(どのような便益を)提供したいのか】
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つまり【What】を作っていく上で【Who】の特定は必要不可欠となります。
例えば、便益ベースの市場からポジショニングを捉える際に記述した主婦の課題例を見てみましょう。この例では、「子供が色々な物を触った汚い手を口に入れたりしてしまい不衛生」という課題から「子供の手を清潔にする」という便益を想定し、「小さな子供がいても安心できる」という顧客起点の観点で商品を設計していきました。つまり、明確な顧客像がなければそもそも適切な便益を設計することはできないということです。また、顧客にとって価値のある便益を設計できるか否かは「顧客をどれだけ深く理解しているか」に全てがかかっています。顧客のインサイトを顧客以上に把握することが便益設計の鍵であり、事業が持続的に成長していくための最重要条件です。
調査・リサーチ
次に調査・リサーチについてです。
商品設計を行うにあたって、事前のマクロ調査/ミクロ調査は欠かせません。サービスローンチ後に後手の対応で追われてしまわないよう、事前に想定できるリスクは洗い出しておきましょう。
PEST
まずは市場の外的要因が事業に影響を及ぼす様々なリスクをマクロの視点から捉えるためのPESTをご紹介します。
1.政治的要因
法体制の変化や政治体制の変化、外交情勢におけるサプライチェーンへの影響、政治に関連した諸問題などが該当します。最近であれば、世界情勢の混乱によって様々な物資の供給が国際的に滞り、燃料不足や半導体不足が深刻な問題となっています。製造業や卸業などへの事業展開を検討する際には、十分に考慮しなければならない項目となります。
2.経済的要因
「景気」に左右されるか否かという観点での考察は主に経済的要因に該当します。他にも、ミクロ視点ではコロナ禍での消費行動の変化や、マクロ視点では金融政策における消費行動の変化なども経済的要因の観点からの考察となります。
3.社会的要因
人口減少問題や訪日外国人の爆発的増加による影響、ジェンダー問題、または加速度的なデジタル化による生活様式の変化、サブスクの一般化による消費体系の変化なども含まれます。
4.技術的要因
最近では主にAIやソフトウェアの開発技術が該当します。またはシリコンバレー等における新しい技術革新などもこれに含まれます。
5.フォース
次に市場の競争状況をミクロ視点で捉えるためのフレームワークとして、1979年にマイケル・E・ポーター氏が発表した「5フォース」をご紹介します。業界の収益を奪い合う存在として、競合他社も含めた5つの勢力を示したのが同氏が提唱した「5フォース」です。
1.競合企業
まずは直接競合/間接競合である「競合他社」です。
当然ですが、競合他社は自社と利益を奪い合う存在ですので、獲得シェアの状況や提供便益の調査が必須となります。
2.売り手
次に「売り手」です。「仕入れ先」がこれに該当します。資材やノウハウ、成果物等の仕入れが特定の業者からしかできないような場合は、仕入れ値が高くなったり、先方優位な条件で取引を締結せざるを得ない事態に陥る可能性があります。ビジネスの拡大に向けて必要不可欠となるような仕入れ先の存在は事前にチェックしておきましょう。
3.買い手
次に「買い手」です。買い手はBtoCの場合、エンドユーザーである「消費者」がこれに該当します。また、量販店などの小売店に商品を卸すことがある場合は、その「卸先」が該当します。「消費者」一人ひとりの交渉力が事業に大きな影響を与えることは少ないですが、「卸先」は規模の大小によってバイイング・パワーが大きく異なります。PBブランドを持つような大規模な卸先は他商品との有効な差別化が図れていない商品を安くメーカーから買い叩くことも多いため、注意が必要です。
4.代替品
次に「代替品」です。同じ種類の他社商品のみならず、同じ機能を持った異なる種類の他社商品も、自社の商品と代替可能な商品となります。自社独自の事業優位性を担保するため、容易に模倣されない商品作り、他社が提供していない便益の提供、ブランドの確立、ポジションの確保を心がけましょう。
5.新規参入業者
次に「新規参入業者」です。事業の立ち上げに多大な資本が必要となるような事業や、圧倒的なブランドを確立している競合他社が既に存在しているような領域においては、基本的に先行者優位となります。逆に参入障壁が低ければ低いほど、常に新規参入業者の脅威に晒されるリスクは高まります。
需要予測
次は需要予測についてです。
この項では需要予測をする際に抑えておかなければならない考え方について「マーケティング視点」で解説していきます。現在では多くの企業が需要予測に伴うデータの集積、解析にAI技術を活用しています。特にサプライチェーンの工程で「生産」「出荷/集荷」「保管」「配送」が絡む事業は仕入れ調整が事業に多大な影響を与えるため、需要予測の重要度が高くなります。従来では需要予測技術をこのような在庫管理やサプライチェーン調整に活用していましたが、近年では在庫や仕入れ調整のみならず、需要予測で得たデータを次のマーケティング戦略に反映させることが重要な要素となっています。需要予測から抽出した利用データを事業戦略に活用した実例を一つご紹介します。
コロナ禍でマスク着用が常態化したことにより、口紅需要が減少しました。そこでとある化粧品メーカーがAIのシステムを活用して自社の口紅におけるブランドの需要予測をした際、マッドタイプの口紅の需要数値だけ減少していないことが判明しました。マッドタイプの口紅はマスクにつきづらいため、「マスクを着用しても形が崩れず、マスクも汚れない口紅が今求められているのではないか」と数値から仮説を導き出し、次の事業戦略に活かしています。このように需要量を算出するだけでなく、【AIが弾き出した需要予測の背景を読み解き】、次の戦略に活かす姿勢が重要になります。
競合状況
次に競合調査です。5フォースの中では「競合」に該当する領域です。
ポジショニングの章でも前述しましたが、競合他社には「商品ベースでの競合(直接競合)」と「便益ベースでの競合(間接競合)」が存在しています。競合調査をする際も、単純な競合数のみを測るのではなく、
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顧客の課題/ニーズを特定
→顧客は競合の商品を通して何を解決しているのか?
競合が押し出している便益を特定
→顧客がその競合の商品を選んでいる理由は何なのか?
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までを把握し、自社と類似した便益をすでに提供している競合がシェアを占めていないか、自社の事業が提供する便益に対して需要量は十分であるかを入念にチェックしましょう。
【Who / 顧客分析】
続いて、【Who / 顧客分析】です。
この章は【What / 商品設計】と並んで非常に重要な要素となり、WhatとWhoが確定したら戦略のほぼ8割は完成しています。今回の章では下記の構成で解説をしていきます。
市場の細分化(セグメンテーション)
顧客特定の第一歩は「市場の細分化(セグメンテーション)」です。
セグメンテーションは主に下記4つの観点から区分けをすることができます。
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1.人口統計的条件
→年齢、性別、職業、家族構成、など人の基本情報
2.地理的条件
→住んでいる国や働いている地域など地理的な条件
3.心理的条件
→性格や価値観、嗜好性、購買動機など心理的な条件
4.行動的条件
→買い物をする時間やタイミング、買い替えや買い足しをするタイミングなど人の行動に関係する条件
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上記4つの観点での区分けがセグメンテーションの基本となり、事業形態によって各指標の重要度は異なります。「セグメンテーション」を試みる際、多くのマーケティング担当者は年齢や性別などの「人口統計変数」や居住区などの「地理的条件」からセグメンテーションを行います。しかし、特定の性別が対象の商品や、地域に根差した事業のため地理的条件で顧客が限定されるような場合を除き、セグメンテーションにおいてまず初めに重要なことは「ニーズ」で区分けすることです。
消費者の購買行動には「ニーズ」が原点として存在しており、そのニーズを解決するために消費者は商品を購入します。すなわち「誰に(Who)売るか」を言い換えると「どのようなニーズを持った人(Who)に売るか」となります。市場にどのようなニーズを持った人がいるかを可視化することは、商品設計に欠かせない重要な要素です。
なお、ニーズの特定方法が分からない場合は、「課題」からニーズを導き出すことでヒントが得られます。例えば、「手を清潔に保ちたい」というニーズは「手が不衛生だと食事ができない / 料理ができない / 子供の世話ができない 」などの課題から発生するニーズです。これらの「課題」を消費者や自身の生活の中で見つけ出し、ニーズを探り出すことができます。
顧客の特定(ターゲティング)
市場をニーズごとに区分けしたら、どのニーズを持った顧客に対してアプローチするかを確定させます。これが「ターゲティング」のファーストステップです。爪切りであれば「清潔にしたい」「楽をしたい」「安全にしたい」「お洒落をしたい」といったニーズの中から、特定のニーズを持った顧客層を選定します。これは自社のケイパビリティも踏まえた上で、どういったニーズを持った顧客をメインターゲットとすれば自社が市場で優位に立てるのかを検討しなければなりません。また「Why」の章で記述した通り、訴求軸(全面に押し出す便益)は一つに特定することが好ましいです。(例 コメダ珈琲なら「くつろぎ」、RIZAPなら「変わること」)顧客の特定と便益の特定は必ずセットでなければなりません。ターゲティングの段階で「顧客ニーズ」と「訴求軸」を明確に定義して商品設計をすることが、競合他社の商品とコモディティ化せず、商品の独自性を担保するための第一歩となります。
ニーズベースでアプローチしたいメインの顧客層が確定したら、次に「ペルソナの解像度向上」のステップに入ります。上記で特定した「ニーズ」を抱えているのは「どういう人なのか」を可能な限り具体化しましょう。
自社の商品を購入し、利用し、満足し、継続利用又は再購入するロイヤル顧客は、
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・何歳の
・男性 or 女性で
・何の仕事をしていて
・どのような家族構成で
・どのようなライフスタイルで
・どのようなタイムスケジュールで生活をしていて
・何を大切にしていて
・何が嫌いで
・何に悩んでいて
・何を解決して
・どうなりたいのか
、、、など
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自社の顧客となる実際の人物像をできるだけ詳細にイメージすることが重要です。その解像度が高ければ高いほど、この顧客の悩みを解決するために必要な商品の機能は何なのか?また、この顧客はいつどこでどのようなタイミングで自社の商品を発見し、興味を示し、購入に至るのか、など戦略、戦術を立てる際の具体度が高くなります。
顧客理解
最後は顧客理解についてです。
顧客理解を考える上で初めに抑えておかなければならない前提は「多くの顧客は顧客自身の購買動機について、あまり考えていない/分かっていない」ということです。購入頻度や価格の高い低いに関わらず、顧客は無意識のうちに商品選定をしていることが多く、顧客自身に購入動機を尋ねても的確な返答が返ってこないことはよくあります。このような顧客自身も認識していない無意識のニーズ「インサイト」を発掘できるか否かは商品設計の鍵を握る重要な要素です。では、このインサイトはどのようにして捉えたら良いのでしょうか?インサイトを捉えるための実践的な方法を下記で一つご紹介します。
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▼インサイト発掘
1.実体験
→想定している課題を解決できる様々な商品・サービスを消費者として実際に利用する
2.購入動機の言語化
→なぜその商品・サービスを購入し、利用しようと思ったのかを言語化する
3.商品選定理由の言語化
→なぜ他の商品・サービスではなくそのサービスを利用しようと決断したのかを言語化する
4.満足度の言語化
→継続利用したいか、知人に紹介したいか、などから満足度を判断し、理由を言語化する
5.満足度評価方法の言語化
→何を持って商品に満足したと感じたのか?を言語化する
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インサイト発掘の一番の近道は「消費者として体感→言語化」の繰り返しを徹底的に行い、仮説を立て、検証を繰り返すことです。「購入動機」「商品選定理由」「満足度」「満足度評価方法」を競合となり得る様々な商品で言語化し、
消費者としてその商品・サービスを継続利用する理由は何なのか?
継続利用せず他社商品・サービスにスイッチしたいと思う理由は何なのか?
これらを言語化していくことで、他社がアプローチできていない顧客の「インサイト」を仮説立てることができます。既に商品・サービスを市場に売り出している場合は、仮説立てした「インサイト」に訴求できる商品・サービスに「What」「How」の戦略を練り直し、顧客の年齢や家族構成、地域特性、利用回数、などから得た利用データをもとに検証を繰り返していく地道な努力が必要です。
【How / 戦術設計】
次に【HOW / 戦術設計】についてです。
【How】は顧客に商品を【どうやって届けるのか】を設計していくフェーズになります。
【Who(誰に届けるか)】と【What(何を提供するか)】が決まれば、あとは顧客の生態系と商品の特徴に合わせて適切なチャネル選択を行っていくだけです。
【How / 戦術設計】を弊社では下記2つに区分しています。
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1.売るための仕組み作り
→ブランド構築及びサプライチェーン構築
2.売るためのアクション
→マーケティングコミュニケーション
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1.は時間をかけて少しずつ構築していく基盤作り、2.は時流の変化に対応したその時々のアプローチ方法です。どちらも持続可能な事業成長には欠かせない要素となります。それでは、下記で詳細を解説していきます。
ブランド構築
まずは「ブランド構築」についてです。
ブランド構築と一貫性
ブランドが構築されている状態とは、言い換えると「顧客の脳内に自社の商品・サービスが思い浮かんでいる状態」を意味します。ブランド構築は【Why】→【What】→【How】における一連の事業推進が「提供便益」を軸に一貫していることが非常に重要なポイントです。前項でご紹介したRIZAPを例に挙げます。
RIZAPの提供便益である事業の軸は「変わること」です。「変わる」という軸からRIZAPの事業概略を見直すと、
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「変わるための」ボディメイクサービス
「変わるための」高価格帯
「変われるを想起させる」RIZAPのネーミング
「変われるを想起させる」結果にコミットするのキャッチコピー
「変われるを想起させる」ビフォーアフターのCM
「変われるを想起させる」著名人のストーリー
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「Why→What→How」の全てが一貫して「変われる」というメッセージを消費者に訴求しているため、消費者は「本気で痩せたい、本気で体を作りたい=RIZAP」と脳内で想起することができるようになります。このように、ブランド構築における重要なポイントは「一貫性」であるということをまずは抑えておく必要があります。
次に、ブランドの脳内想起は大きく「純粋想起」と「助成想起」の2つに分類することが可能です。商品やサービスの特徴によって獲得すべきブランド認知の種類が異なるため、下記でご紹介します。
純粋想起
まずは「純粋想起」です。
純粋想起とは「ヒントなしで答えられるブランド」のことを指します。例えば、「チョコレートといえばどのブランドが思い浮かびますか?」というような自由形式の質問に対して「ゴディバ」と答えれば、ゴディバのブランドは純粋想起されたことになります。純粋想起はブランド想起の中では最も認知度が高く、ハイブランドな商品やサービスは「純粋想起」を獲得していることが購入の前提条件となることが多いです。ただ、物が溢れている現在の市場においてはトップシェア商品は大企業がほとんど独占しています。ハイエンドの商品で純粋想起獲得を目指す場合、他社との有効な差別化を図った上で自社のポジショニングを明確にし、ニッチな領域で市場開拓を試みる必要があります。
助成想起
次に「助成想起」です。
助成想起は「ヒントや選択肢を提示した上で」商品のブランドを想起してもらうことを指します。純粋想起の質問は、「チョコレートと言えばどんなブランドが思い浮かびますか?」という自由回答形式の質問であるのに対し、助成想起の質問は「下記のチョコレートブランドで知っているブランドはありますか?①DARS、②Ghana、③meiji、④LOOK、⑤ブラックサンダー」のように選択肢を与えた上で商品のブランドを想起してもらうような形式を取ります。助成想起は純粋想起に比べて想起度合が低いですが、食品や飲料、日用品など比較的安価で種類が豊富な商品を展開する際には「助成想起」のみの獲得でも利益を見込むことができます。
ブランド戦略で勝ち筋を作る方法が分からないという課題がある場合、「純粋想起」と「助成想起」を活用して商品のブランドポジションを明確化することが必要です。
サプライチェーン構築
「サプライチェーンの構築」は売るために必要な仕組み作りとして、当然必須項目となります。この項では「サプライチェーン構築」にあたって重要となる点を「マーケティング視点」で解説していきます。
「製造 / 保管 / 配送」の組織連携
自社製造、自社販売の形式を取る場合、資材調達、製造ライン構築、保管場所の確保、配送ラインの確保が必要です。過剰生産や過剰在庫による利益の損失を防ぐため、需要予測によって商品の需要量を見極めること、加えてサプライチェーンにおける各過程の情報データを企業間で一括管理できるクラウドを利用するなどの対応が必要となります。また、弊社ではこれらサプライチェーンの構築も「持続可能な事業成長をし続けること」の一部であり「マーケティング」であると定義しています。「マーケティング」の観点から見たとき、サプライチェーン構築において最も発生しがちな課題は「顧客不在の組織運営による売上の停滞」です。サプライチェーンの構築には開発から納品まで、様々な企業や多くの部署が関わっています。規模が大きくなり組織が縦割りで分断されるようになると、ほとんどの分断された組織は「自分たちの中間KPIのため」や「取引先のため」の仕事になります。この状態が放置されると「顧客起点」での横断的な組織連携は機能しなくなります。顧客ニーズが多様化し、変化のスピードが速い現代において「顧客不在」のマーケティング活動は再現性が低く、売上がジリジリと低下していく傾向が高いです。そのためサプライチェーン構築における「商品企画」「製造」「保管/配送」などの各部門は一括して「マーケティング部門」の管轄下とし、縦割りの組織に「顧客起点」の横軸を据え、データドリブンな全体運営をすることが今後は非常に重要となります。
流通チャネル
次に流通チャネル設計です。
チャネル設計は商品をデリバリーする方法を顧客の生態系に合わせて設計していく作業となります。この章では
- オフラインチャネル
- オンラインチャネル
- オムニチャネル
の3つのチャネルについてポイントを解説していきます。
オフライチャネル
まずはオフラインチャネルです。
オフラインチャネルでの事業展開は主に「自社店舗での販売」と「小売店への卸売」の二つに分類できます。ここではそれぞれで重要な要素について解説します。
・自社店舗での販売
自社で店舗を構えて商品販売を行う場合、立地の選定や業態の選定における市場調査、商品企画、店舗設計、集客施策、店舗運営、CRM施策まで一連のマーケティング活動を行わなければなりません。これら一連のマーケティング工程の中で、特に自店舗を構える上で重要となるポイントを3点解説します。
- その町をよく知る
- 誰を顧客にするのかを決める
- 常連顧客を作る仕組みを作る
1.その町をよく知る(市場調査)
まず初めに大切なことは、店舗を構える町のことをよく知ることです。
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・その町にはどのような人が住んでいるのか
・その町にはどのような人が行き来するのか
・その店舗周辺ではどのような人が何時ごろに多いのか
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これらのことをよく調べることで、初めてその町に適した店舗の業態やニーズが見えてきます。
2.誰を顧客にするのかを決める(セグメンテーション・ターゲティング)
次に、誰を顧客にするのかを決めます。
どのような商品を仕入れるのか、どのような棚割りにするのか、営業時間なども含めて、店舗運営を行う上でターゲティングをしっかりと行うことは非常に重要な要素となります。その際、年齢や性別のみではなく、顧客の趣味や嗜好性なども具体的にイメージすることで、店内のレイアウトを顧客に合わせて設計することができます。お店の個性をダイレクトに顧客に伝えることができるという店舗の利点を積極的に活用しましょう。
3.常連顧客を作る仕組みを作る(CRM施策)
一度来店した顧客に対してクーポン配布やポイント還元案内、公式LINE誘導など、顧客にメリットのある施策を積極的に打つことや、一つひとつの挨拶や接客態度を上質化させることなど、顧客と直接接触することができる店舗ならではの施策となります。
・小売店への卸売
小売店への卸売を行う企業は店舗マーケティングを念頭においた戦略構築をする必要があります。またメーカー都合の運用ではなく、「エンドユーザー」「小売店」のメリットを最優先にした運用を心がけることが重要です。ここでは小売店への卸売を通して事業成長をするために重要なポイントを2つ解説します。
- 配荷率
- 陳列場所
1.配荷率
まずは配荷率です。配荷率とは「どのくらいの店舗に自社商品が置かれているか」を表す指標です。量販店100店舗のうち70店舗に該当商品が陳列されていれば、その商品の配荷率は70%となります。当然ですが、自社の対象顧客が多く生活している地域では、その地域の量販店の配荷率が高ければ高いほど商品を購入されるチャンスは多く、配荷率が低ければ低いほど商品を購入されるチャンスは少なくなります。まずは配荷率を高めていくことがメーカー企業の命題となります。そのためには「自社商品がもたらす小売店にとっての便益」を小売店に打ち出す必要があります。
2.陳列場所
次に陳列場所です。量販店の中でも消費者の目に止まりやすいゴールデンゾーンに商品を陳列してもらうことで、商品の購買率は飛躍的に高まります。量販店にとっても、来店する顧客がつい手に取ってしまいたくなるような商品や、他商品との合わせ買いを促すことで量販店の売上拡大に繋がるような商品は積極的にゴールデンゾーンに置きたいと考えています。
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・ブランド力は十分か
・顧客の目を引くパッケージか
・時期やトレンドに合わせた消費者に喜ばれる商品か
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など量販店の立場に立った提案を心がけることで、より条件の良いゾーンに商品を陳列してもらいやすくなります。
オンラインチャネル
次にオンラインチャネルです。
オンラインチャネルもオフラインチャネル同様、対象顧客が「どこにいるのか?」をまずは把握することが必要です。また、顧客に「知ってほしいのか」「興味を持ってほしいのか」「コミュニケーションを取りたいのか」など、顧客との関係フェーズや目的によって使用媒体や作るべきコンテンツが異なります。ここまでをまとめると下記になります。
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1.対象顧客がどこにいるのかを把握する
2.フェーズごとのコミュニケーション設計をする
3.フェーズごとに適したオンライン媒体を選定する
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1.対象顧客がどこにいるのかを把握する
こちらについては総務省の公式HPに各SNSの利用状況が掲載されています。
総務省公式HP
2.フェーズごとのコミュニケーション設計をする
3.フェーズごとに適したオンライン媒体を選定する
こちらについてはマーケティングコミュニケーションの項目で後述します。
オムニチャネル
最後はオムニチャネルです。
オムニチャネルとは「オンラインチャネル」と「オフラインチャネル」を統合的に連携させ、顧客一人ひとりに最適な購買体験を提供する販売形式を意味します。例えば、SNSやWEBカタログ、ECサイト、店舗販売など顧客と企業間に複数のタッチポイントが存在する場合、購入に至るまでに顧客が辿る購買動線は多数存在します。例えば、SNSで商品を検索してから店舗で商品を購入したい顧客もいれば、店舗で商品を検討してからECサイトで商品を購入したい顧客もいます。こういった様々な購買ニーズに合わせた販売形式そのものを指します。オムニチャネルにおける最大のメリットは「CRM(顧客関係性管理)戦略の無限拡大」です。例えば、来店した顧客にSNSアカウントのフォローをしてもらえる施策が打てれば、見込み顧客や既存顧客とその後のコミュニケーションが可能となり、顧客ニーズに合わせてさらなる商品の提案や、買い替え時期のリマインドなどが可能となります。また、顧客情報を全店舗で一括管理できるシステムが導入できれば、希望の色やサイズの商品が在庫切れだった際などには情報を入力しておき、他店舗でも顧客が再来店した際は前回の顧客情報を踏まえた提案が可能となり、顧客の購買体験を飛躍的に上質化させることができます。このように、オムニチャネルでCRM戦略を設計する際はリアルとネットの「連携」が重要な要素となります。
マーケティングコミュニケーション
上記までが【How】における「1.売るための仕組み作り」
ここからが【How】における「2.売るためのアクション」です。
世間一般で「マーケティング」と呼ばれている領域はここでの「マーケティングコミュニケーション」に該当するフェーズです。しかし、「マーケティングコミュニケーション」は前項で記載したように「デリバリーの手段」でしかありません。マーケティング戦略における重要度としては「顧客ニーズやインサイトの深堀り(Who)」、「顧客ニーズやインサイトに刺さる便益の設計(What)」の方が上です。これらがしっかりと見つけ出せていれば、あとは「顧客の検討フェーズに適したコミュニケーションを図っていく(How)」だけとなります。戦略設計において「マーケティング」の捉え方は非常に重要な要素であるため、再度念押しをしておきます。ただ、検討フェーズごとに顧客が求めるコンテンツは異なるため、コミュニケーション設計も重要なマーケティングのフェーズであることは間違いありません。今回の記事では、「検討フェーズごとに顧客はどのようなコンテンツを求めているのか」のポイントについて大まかな要素を解説していきます。
認知 / 興味 / 確認フェーズ
初めに「認知」のフェーズです。
この段階では、顧客はまだ「潜在顧客」であり自身のニーズも認識していない前提でのコミュニケーション設計が必要です。また、自社の商品やブランドについて全く知らない顧客に対するアプローチとなります。そのため、ここでの目的は「まずは知ってもらうこと」です。知ってもらうためには「顧客の興味を引くコンテンツ作り」と「何度も顧客の目に触れること」が重要な要素となります。
コンテンツ作りの際には下記の3点が鉄則となります。
- ニーズを顧客に想起させる
- 対象顧客を絞って訴求する
- 提供便益を明確に訴求する
1.潜在顧客に「課題」や「ニーズ」を想起してもらうこと
2.その「課題」や「ニーズ」に当事者意識を持ってもらうこと
3.その課題を解決できるかもしれないと思ってもらうこと
この3点が初めに抑えておきたい「認知」フェーズでのポイントです。
「何度も顧客の目に触れる」ためには、対象顧客が普段使用しているSNSやメディア、通勤などで使用している電車、テレビを見ている時間帯など、対象顧客の絞り込みと生態系の把握をとにかく入念に行いましょう。ただし、認知を獲得し終えたあとも広告を投稿し続けてしまうと、新規獲得者数はズルズルと低下していくためCPO(顧客一人あたりの獲得単価)が上がっていきます。広告投下の際にはCPA/CPO、又は顧客獲得数や売上、広告投下期間など、期限や上限を設定した施策の策定が重要です。
比較検討フェーズ
次に「比較検討」フェーズです。
比較検討フェーズで重要なポイントは「差別化を意識したコンテンツの提供」です。このフェーズでは、顧客は既に自身の「ニーズ」を認識しており、それを解決したいと考えています。その中で複数の選択肢の中から自身のニーズを解決するために最適な商品を探しています。つまり、顧客は「何が違うのか知りたい」と考えています。上流戦略において【Who / 顧客インサイトの深堀り】と【What / 提供便益の明確化】が十分にできており、ポジショニングを自社が把握できている状態においては、ここでの訴求メッセージは即座に設計できる状態であると言えます。しかし、「他社との差別化」「顧客に刺さる便益の訴求軸」が即答できない企業経営者、マーケティング担当者は意外にも少なくありません。これは小手先のプロモーション手法ばかりが流布してしまっている弊害の一つでもあります。もしも「顧客が自社のブランドを選んでいる理由は何か?」の問いに即答できない状態であれば、【How / マーケティングコミュニケーション】の設計に入る前に、【Who / 顧客理解】【What / 商品・サービス設計】に立ち返ることが重要です。
購買フェーズ
次に「購買」フェーズです。
ここでは既に購入を検討している商品は確定しており、その商品を購入するか否かの判断をしているフェーズになります。ここでのコミュニケーションで重要なポイントは「信頼の獲得」です。買い物で失敗したくないという消費者心理が購買行動には常に働きます。この消費者の不安を除去できるか否かが、消費者の「信頼を獲得」できるか否かにかかっています。GoogleやSNSの利用が浸透した現在において、消費者にとって最も信憑性の高い情報は「口コミ」です。企業側の作り込まれたメッセージよりも、消費者による使用体験等の情報は購入検討者にとって遥かに価値のある情報です。中には、金銭を支払うことで口コミ投稿を依頼したりする企業もありますが、【持続可能な事業成長】の観点から、これらの手法は望ましくありません。顧客インサイトの深堀りと商品のブラッシュアップを徹底した上で、ロイヤル顧客の声をいかに拾い上げて発信するかを試行錯誤しましょう。また見込み顧客に対して、公式ラインや会員登録のオプトイン等でアプローチが可能であれば、顧客ニーズごとのセグメントでステップメールを配信することも購入に引き上げる施策として効果的です。
継続フェーズ
最後に「継続」フェーズです。
ここからは既存顧客のロイヤルカスタマー化を目的としたコミュニケーション設計となり、CRM戦略の領域となります。商品の特徴によってCRM戦略は大きく異なりますが、健康食品や化粧品など継続購入が前提となるような商品に関してはLTVの向上が事業成長の大命題です。ここで重要なことは「コミュニケーション設計を顧客ニーズや満足度合いごとにセグメント分けすること」です。顧客アカウントが増加したらCRM / MAツール等を活用し、流入経路や購入動機、ステップメールの開封率やマイページログイン率などの顧客情報を可視化し、顧客の興味度合いに応じたコミュニケーション対応が必要となります。またリソースに限度はありますが、既存顧客とのコミュニケーションには「電話」も非常に効果的であり、課題や悩みについて気軽に相談できるような関係性を構築できれば理想的です。そのためには、自社の商品を利用する顧客の「課題」や「悩み」をよく観察し、普段から顧客の「便益」を最優先に据えたコミュニケーションを意識することが重要な要素となります。
BtoC戦略によくある「課題」と「施策」
この章では、普段弊社がご支援をしている中からBtoC事業によくある「課題」、それに対する「施策」を事業フェーズごとに区分してご紹介していきます。
下記が全体像です。
マーケティングにおいて発生する課題を、ここでは7つに区分しました。
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1.経営戦略課題
2.Who課題
3.What課題
4.リサーチ課題
5.流通課題
6.販促課題
7.組織課題
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問題解決においてボトルネックを特定する際は上流戦略から下流戦術の順でボトルネックを追っていくことが鉄則です。
それでは、詳細を解説していきます。
【経営戦略課題】
まずは経営戦略課題です。
上記のような問題が継続している場合、初めに確認しておかなければならないのが「経営方針と事業内容は一致しているか」というポイントです。
経営方針と事業内容の不整合
前項で例にあげた「RIZAP」や「コメダ珈琲」を見ると、「経営理念」と「事業内容」のベクトルが綺麗に一致していることが分かります。
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▼RIZAP
・経営理念:「人は変われる。」を証明する
・事業内容:ヘルスケアやゴルフなど「目標達成」の総合コンサルティング
▼コメダ珈琲
・経営理念:「私たちは”珈琲を大切にする心から”を通してお客様に”くつろぐ、いちばんいいところ”を提供します」
・事業内容:フルサービス型のコーヒーチェーン展開
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「経営理念=目的」、「事業内容=目的を達成する為の手段」と捉えた場合、「事業内容」が「経営理念」を達成する為の手段として機能していなければ、何のために事業展開をしているのか分からないチグハグな経営となってしまいます。当然のことのようですが、組織の経営陣が変わったタイミングや新規事業立ち上げのタイミングなどで「経営方針」と「事業内容」がズレてしまうことは意外と少なくないため注意が必要です。
【Who課題】
次に「Who課題」です。
マーケティング活動において「顧客理解」は非常に重要な要素であり、難易度が高い分野でもあります。前述したように、顧客は商品の購買行動を自分自身でも気がついていない「インサイト」によって決定していることが多く、アンケート調査やヒアリングだけでは正確な情報の獲得は困難です。企業サイドが意図して顧客のインサイトを深堀りしていく努力が必要となります。ここでは「顧客理解」においてよくある課題を記述します。
セグメンテーションが不十分
顧客理解は前提としてセグメンテーションが必須事項となります。顧客層を様々な観点から「区分け」することで対象顧客を具体化することができます。もしも「自社の商品を購入するのはどのようなニーズを持った、どのような顧客ですか?」の問いに対しての答えが抽象的な場合は、ご紹介した4パターンのセグメンテーション(「人口統計、地理、心理、行動」)をまずは実践しましょう。特に、顧客が抱えている「ニーズ」を区分けできていない場合は便益の設計もあやふやになってしまっている可能性が高いです。この状態では戦術をいかに試行錯誤しても上記の問題は一向に根本解決されないため、まずは顧客ニーズの区分けを丁寧に行いましょう。
ターゲティングが粗い
顧客理解を深める上で「ターゲティングの粒度」も重要な要素となります。改めて「ターゲティング」を行う目的を考えてみましょう。「ターゲティング」を行う目的は、自社の商品をどのような属性の顧客に売るのかを明確にすることで収益を拡大するためです。アプローチする顧客の属性によって趣味嗜好や日頃の使用媒体、抱えている課題などは異なります。そのため、顧客の属性に合わせて商品設計やマーケティングコミュニケーションを変化させていく必要があり、顧客像(ペルソナ)が具体的であればあるほどそのペルソナに合わせた具体的な戦略を立てることができます。またペルソナ像を具体的に設計すればするほど、つい忘れてしまいがちな「顧客のことを思考する習慣」が嫌でも身につきます。日頃から「顧客起点」の思考基盤がチーム全体に浸透しているか否かの違いは戦略の立案や一つひとつの取捨選択に明確な違いを生みます。「自社のターゲットは誰ですか?」と質問をした際、「30代主婦」や「20代サラリーマン」などざっくりとした回答をされる方も多いですが、このような方の多くはペルソナ像が粗く、普段から顧客起点よりも企業起点の思考でマーケティング活動をしているチームが多いように思います。事業戦略の観点からもターゲティングを具体的に行うことは重要ですが、ターゲットを具体化する工程で「顧客起点の思考基盤を育むこと」もまた重要な要素となります。
顧客ニーズ・インサイトが不明確
最後に「顧客ニーズ・インサイトが不明確」です。当然ですが、顧客ニーズ・インサイトと提供便益にズレが生じていると事業は拡大していきません。では、顧客ニーズと提供便益のズレはどのようにして修正すれば良いでしょうか?それは対象顧客の購買データやヒアリングデータを活用して仮説検証を繰り返していくことです。そもそも「インサイト」とは顧客自身も気がついていない無意識下の深い領域に存在しているニーズを指すため「正解」を可視化することは難しく、顧客の購買行動からインサイトの仮説を立ててアンケートなどを行い、次の施策に反映、結果を考察することで「インサイト」を深堀りしていきます。インサイトを発掘する際の大まかな手順は下記となります。
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1.対象顧客のペルソナを設定する
2.自社商品を利用している時の※共感マップを作成する
3.この中で特に「痛みやストレス」「得られるもの」を複数想定する
4.これらをはかる為の定量/定性のアンケート調査を行う
5.調査結果を解析して施策に反映する
※共感マップ:対象顧客が商品を使用している時に「見ているもの」「聞いていること」「考えていること・感じていること」「言っていること・行動」「痛みやストレス」「得られるもの・欲しいもの」を可視化する
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【What課題】
次に「What課題」です。商品設計におけるよくある課題を記述していきます。
提供便益と顧客ニーズの不整合
初めに「提供便益と顧客ニーズの不整合」です。特に機能性が高い商品や他社との差別化が明確な商品ほど、企業起点の開発によって顧客が置き去りになっていることが多いため注意が必要です。もしも提供便益が顧客ニーズとズレている可能性がある場合、その補正に有効なのが「顧客データ」です。とある消費材の企業は、漂白力が他社商品に比べて最も高い洗剤を開発しましたが思ったような売上が上がらず、ヒアリングによって「顧客がどのように汚れの落ち具合を確認しているか」調査したところ、「仕上がり後の匂いで確認している」ことを突き止め、匂いの元まで落とす商品開発、訴求軸に変えたところ消費が大幅にアップしました。このように提供便益が明確な商品ほど「便益とニーズのズレ」は売上に大きく影響します。また老舗企業やロングセラー商品を持つ企業ほど顧客ニーズを固定観念で捉えてしまいがちですので、常に目の前の顧客データ、購買データを元にした施策設計を心がけましょう。
訴求軸が曖昧で不明瞭
次に訴求軸についてです。商品の機能性は抜群でも、有効に伝わらなければ継続して購入される可能性は低いです。訴求軸を「分かりやすく」するメリットはいくつかあります。
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1.狙った属性の対象顧客にサービス利用を促しやすい
2.対象顧客に合わせたサービス設計により顧客をロイヤル化させやすい
3.ブランドイメージの構築に役立つ
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商品の訴求軸を分かりやすくしておくことで「〇〇するなら△△」と自社サービスのブランドイメージを構築しやすくなります。ブランドイメージの構築がスムーズにできれば、自社が本当にきて欲しい顧客(特定の課題やニーズを持った顧客)の集客ができるようになり、狙った属性の顧客に刺さる便益の提供をすることで利用客の満足度が向上し、ロイヤルカスタマー化によって顧客の継続利用率を向上させることができます。逆に、訴求軸が曖昧だとサービス利用をする顧客が持つ課題やニーズは定まりづらく、結果として事業が右肩上がりに成長することを妨げてしまいます。
競合優位性の欠落
次に「競合優位性」についてです。
一般的に代替可能性の高い商品で市場を勝ち抜くためには、薄利多売の熾烈な価格競争を勝ち抜く資本力が必要です。このような市場はすでに大企業が独占しており、トップシェアを狙うには、特定の領域で市場を獲得する、いわゆる「ニッチトップ戦略」が従来では必要でした。しかし、現代では消費ニーズが多様化している影響で、「ニーズとニーズの掛け合わせ(例えば「カラオケ」「ダーツ」「ビリヤード」などが複合的に利用できる総合アミューズメント施設など)」や「機能と機能の掛け合わせ(例えば「くつろぎたい」というニーズに「お風呂」と「カフェ」の機能を掛け合わせた「お風呂カフェ」の展開)」などの方法で他社との差別化をはかることも勝ち筋になり得る時代になりました。これはデジタル領域で消費者と接点を持つ機会が増えたことで、トップシェアにならなくても狙った消費者と繋がることが可能になった恩恵だと言えます。また、競合優位性は「What」を変えずに「How」で見せ方や訴求軸を変更するだけでポジショニングが変わり売上を伸ばすことができる可能性もあります。上流戦略から下流戦術の順で一つずつ見直していきましょう。
【リサーチ課題】
次に「リサーチ課題」についてです。
日頃の事業推進ではつい後回しにされがちな「リサーチ」の重要性について記述します。
顧客の購買行動を数値化していない
事業を成長させることを目的とした場合、あらゆる事業戦略や販売戦術は顧客の購買データから作り出されるべきであり、顧客の購買行動をデータで見える化しておくことはマーケティング活動を行う上で非常に重要な要素となります。
例えば前の項で述べた口紅の例では、マスクが必需品になったことで多くの口紅が売上低下となっている一方、口紅がマスクにつかないマッドタイプの口紅だけ消費量が変わらなかったという購買データを元に「今求められているのはマッドタイプの口紅なのではないか?」と仮説を立て、同企業は次の商品戦略に活かしました。
また販売戦術を策定する上でも購買行動の数値化は重要です。例えばECサイトの運営であれば、
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・広告は何人に表示されたのか?
・そのうち何人が広告をクリックしたのか?
・サイトには何人が訪問したのか?
・そのうち何人が購入ボタンを押したのか?
・そのうち何人が購入完了に至ったのか?
・継続利用率は何%なのか?
・新規顧客の何%が継続/離脱するのか?
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などです。各ステップでの数値が分からないと改善が必要なポイントを考察することもできません。
このように顧客の購買行動を可視化するためにはまず購買行動を数値化する必要があります。あらゆるPDCAを実行するための最低限必要な情報となるので、なるべく購買データは数値化しておきましょう。
顧客理解における定量/定性調査をしていない
購買データやヒアリングデータから顧客のニーズ・インサイト発掘を行うことも「リサーチ」です。これらのリサーチによって商品開発やマーケティングコミュニケーションの戦略が変わります。
市場調査を行っていない
市場規模や競合数、競合の規模などを把握しておくこともマーケティング活動において重要な要素です。こちらは先に述べた「5フォース」を参考にしてみてください。特に「新規参入者数」の多い業界は、参入障壁が低い上に代替可能性が高い商品・サービスを取り扱っている可能性が高い為、成長難易度が高いと言えます。
【流通課題(オフライン)】
次に「流通課題」についてです。
オフライン・オンライン・オムニチャネルの順に解説していきます。
量販店への露出不足
オフラインの流通課題として最初にあげられるのが物理的な露出不足です。特に自社店舗での販売をメインとしている場合、店舗集客がうまくいかないと売上向上のチャンスはありません。このような場合、まずは集客力のある「量販店」へ自社商品を卸すことができないか交渉する必要があります。量販店に自社商品を卸す場合、他社商品との差別化が弱い商品などは量販店の「PBブランド」として安く買い叩かれてしまうことがある為、量販店の選定や交渉準備をしっかり行いましょう。
配置ポジションの問題
量販店への卸売り交渉を行う際に忘れてはいけないのが、商品の配置ポジションです。店内の商品配置では看板商品が店内のゴールデンゾーンに配置され、その商品の売れ行きやトレンドによって配置されるポジションが異なります。当然ですが、量販店に配置されても顧客の目に触れなければ購入に至らないため、商品の配置場所は重要な要素となります。初めからゴールデンゾーンに商品を陳列してもらうことは難しいため、自社商品の間接競合に当たる商品との抱き合わせによる陳列をお願いするなど、顧客の目に留まる工夫をしましょう。
【流通課題(オンライン)】
ECサイトの運用ができない
オンラインで商品販売を行うには、楽天市場やAmazonなど大型ECモールに商品を出品するか、自社でECサイトを構築して商品を販売する必要があります。どちらの場合も、データ解析のノウハウとPDCAを回す実行力が必要です。近年ではshopifyなどの台頭によってUI/UXの高い自社ECサイトを比較的安価で展開できるようになり、小規模の事業者でも自社サイトを持つ企業が増えてきました。しかしながら、サイトを制作したらそれっきりの状態のまま、動線改善などを行わずに放置されているECサイトも多く見かけます。ECサイトを活用して事業拡大を図っていく場合、顧客動線を可視化してサイトの最適化を行っていくことはマストの条件となります。外部のパートナーと協力をするなどして、サイト内改善はコンスタントに行うようにしましょう。
SNSの運用ができない
ECサイトに集客するためにSNSの活用は有効な手段となります。SNSによって利用者層や使用目的などは異なっており、どのSNSもアルゴリズムを意識した運用が重要な要素となります。SNS運用に関しては下記の記事で詳しく記述しています。どのSNSを活用すべきか迷っている方や、SNS運用に課題を感じている方はご参考にしてください。
Webマーケティングとは
【流通課題(オムニチャネル)】
オンラインとオフラインの各チャネルが分断されている
最後に、オムニチャネルについてです。
オムニチャネルとは「オンラインチャネル」と「オフラインチャネル」を統合的に連携させ、顧客一人ひとりに最適な購買体験を提供する販売形式を意味します。ここで重要なのはオンラインチャネルとオフラインチャネルが「連携」していることです。それぞれが分断されていたり、オンラインとオフラインを繋げる動線が確保されていなかったりすると、チャネル間の連携によって顧客に新たな購買体験を提供することはできなくなります。
【販促課題】
続いて「販促課題」です。
ブランドの認知率が低い
ブランドの認知率が低い場合、まずは自社の事業成長にどのようなブランド戦略が的確なのかを見定めることから始めなければなりません。ここでは市場における自社商品のブランドポジションを明確にするために用いられる「トップオブマインド手法」をご紹介します。
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▼トップオブマインド手法
・リーダー
純粋想起率も助成想起率も高い。大企業のロングセラー商品など。新規参入でリーダーポジションを獲得することは困難。
・レガシー
純粋想起率は低いが助成想起率が高い。日用品や食品のような低価格な商品はここを狙うと良い。
・ニッチ
純粋想起率は高いが助成想起率が低い。多くの人に知られなくてもコアなファンを獲得している商品。
・マイノリティ
純粋想起率も助成想起率も低い。
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競合商品と比較して、自社商品の現在のポジションはどこなのか、そしてどこのポジションを狙いに行くのかを判断しましょう。その結果によって、プロモーション方法が変わります。また「多品目」の事業展開を行う場合は、基本的に「コーポレート認知」を獲得することが重要となります。
反応率が低い
・オフライン
店舗での反応率を測る一つの指標として、店内周回中に立ち止まるか否か、商品を手にとって見るか否か、で反応率を測ることができます。多くの顧客が店内を周回中に同じエリアで立ち止まるとしたら、その展示ポジションは反応率が高いということです。量販店などで自社商品に対する顧客の反応率が低い場合は、パッケージデザインは商品の便益を視覚的に分かりやすく伝えられるものになっているか?商品の展示ポジションは自社の対象顧客が周回してくる位置取りになっているか?を確認しましょう。
・オンライン
オンラインでの反応率が低い場合とは、広告のクリック率やSNS投稿へのエンゲージメントが低いケースを指します。広告の反応率が低い場合はデザインやコピーなどの改善ポイントを抽出し、バナー広告ならクリエイティブのA/Bテスト、検索広告なら検索クエリの変更など地道に施策改善を行っていきましょう。一定のテストを行っても反応率が向上せず原因が不明な場合は、訴求軸がニーズとズレている場合が多いです。このような場合は顧客ペルソナを構築し直し、便益とニーズの整合を再度見直しましょう。
購買率が低い
・不安の排除不足
比較検討フェーズには乗るが購買ステップになかなか進まないという場合、「便益」の訴求はできており関心はもたれているが「不安の排除が不十分」である可能性が高いです。消費者は商品を購入するか否かの検討フェーズに入ると、まず第一に「買わない理由」を列挙します。例えば、カバンのデザインは良い→しかし、自身の服装に合うだろうか?似たような物を持っていなかっただろうか?使いどころはあるだろうか?ネットで買えばもっと安いのではないか?。。。など、失敗を避けたい心理がはたらきます。このような不安をその場で排除するため、全身マネキンにカバンを持たせて利用イメージを想像しやすい工夫をしたり、店内でしか利用できない特典(2buy10%offなど)を活用するなど、その場で買う理由を作るための仕組みを構築することが重要です。
・価格が高い
比較検討フェーズで落ちてしまうケースとしては、シンプルに価格と商品の便益に不均衡が生じている可能性も考えられます。例えば、競合他社の商品が同様の便益でより安い価格ですぐ隣に陳列されていればそちらに顧客は逃げてしまいます。
・便益が弱い
また、価格が安くても提供便益が弱いと商品が購入される可能性は低いです。競合他社と同じ価格帯で付加価値がついている、もしくは競合他社の商品よりも高付加価値の商品を同じ価格帯で販売しているなど、競合優位性が担保できる市場で戦いましょう。
継続率が低い
次に継続率が低い場合です。店舗販売を行っているケースでは、ポイントカードの発行や公式LINEアカウントへの誘導などを通じてリピート率の向上を図りましょう。ネット通販事業の場合、特に化粧品や健康食品などLTVが最重要となる領域では、お試しからの引き上げ率をまずはKPIに据えること。また顧客データから離脱の多いタイミングを特定し、ピンポイントでカスタマーサクセスの対応を手厚くするなどの対応が必要です。
【組織課題】
次に「組織課題」です。
部門が縦割りで分断されている
開発から営業など部署が複数に分かれている場合、部署間で分断が起きてしまい組織全体が有機的に機能しなくなってしまうケースが発生しやすいです。組織が大きければ大きいほど、顧客データの管理システムが部署ごとに異なっていたり、各部署で追いかけているKPIのベクトルがバラバラで一つのKGIに収束されていなかったりします。このような場合、各部署で働いているチームメンバーの視座は「部署目標達成のため」に限定され、「顧客視点」での組織運営が極めて難しくなります。縦割りの組織に必要な横軸は「顧客」です。顧客心理と日々向かい合っているマーケティング部署、またはマーケターを上下左右の連携スポットとして置き、KPIの再設計、及び「顧客起点」のマーケティング活動を行うことができる組織へと変革できるか否かが、持続的な事業成長を遂げることができる組織になるか否かの鍵となります。
3.まとめ
この記事では、BtoC事業戦略における概要と具体例及びマーケティング活動で発生しがちな課題と施策について記述しました。特にBtoC事業においては、小手先のプロモーションテクニックに事業主が翻弄されてしまいがちで、戦略における課題のボトルネックが見落とされたまま放置されているケースが非常に多いです。しかし、自社のUSPを把握して市場でポジションを明確にし、勝ち筋を構築していくマーケティング戦略策定の工程は専門性が高く難しい領域でもあります。株式会社縁のMarkeXpertにはエキスパートクラスのマーケターをネットワーク化しており、業務委託での提供が可能です。BtoC向けに事業を展開されていて、マーケティングに課題をお持ちの企業様は下記よりお問い合わせください。